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~2.「カミナ」
ルナは助けた少年の火傷が気になっていたが、タンデムシートの少年は特に苦痛を訴えては来ない。途中声を掛けたが「問題ないです」との返事のみ。
'思いっ切り火のついたタバコをおでこに押し付けられてたから問題ない訳ないでしょ…… '
内心そう思いながらルナの父が経営するバイクの整備工場兼自宅へバイクのアクセルをグッと開けた。
「ふぅ到着!」
ヘルメットを脱いでバックミラーに引っ掛けたルナは後ろの少年に声を掛けた。
「降りて大丈夫だよ」
「はい、ありがとうございます」
少年はルナの言葉にハキハキと答えバイクを降りてヘルメットを脱いだ。
ルナはバイクを降りてサイドスタンドを立てた。そして少年の額を見ようと彼の方を向いて唖然とした。
そこには先程バイクに乗せた少年とは別人が立っていた。いやそう見えただけで、よく見ると同じ少年だ。
「は!?ええっ?……君何でそんなに髪長いの!?」
少年の髪の毛は腰に届く程に長かったからだ。
しかしバイクに乗せる時にヘルメットを被らせたのはルナ自身だ。その時見た彼は可愛らしく顔を丸く包む様なストレートのヘアスタイルだった、ハズだ。
「あ、なんかボク満月の夜はこうなっちゃう事が多くて」
少年は何故か照れ笑いでそう答えた。
ルナは少年の説明の意味が分からず目を白黒させたが、取り敢えず少年の前髪を両手でそっと掻き分け額を見た。
「………はぁ!?」
ルナはまた理解出来ない事態に混乱した。
火傷の水膨れが見当たらないのだ。
ルナが少年にヘルメットを被せた時には確かに火傷の水膨れが出来ていたのにその痕すら残ってない。
と言うか火傷等初めからしてなかったとしか思えない状態……
しかもこの腰まであるロングヘアだ。
途中で別人に入れ替わったのかと間違えても無理はない。
「手当てして下さると本当に助かります!」
少年は元気で、そして笑顔だった。
ルナは明らかに困惑していた。
' いやいやいや、手当てって…… '
「君、一体どうなってるの?火傷の水膨れは消えてるし…… それにその髪の毛…… 大体満月の夜はこうなっちゃうってどんな冗談よ。 それに手当てですって?…… 火傷の痕も無い様だけど、痛むの?おデコ」
' これじゃまるで…… '
状況が理解出来ないルナは、矢継ぎ早に少年に質問を返した。そして脳裏に浮かんだ自身の知識にある僅かな可能性も打ち消した。
少年がルナの質問に答えようとしたところで後ろから声が飛んで来た。
「おう、お帰りルナ!…… って、ん? そちらさんはお友達かい?」
声の主はルナの父、灰月照矢(はいづきてるや)だった。
バイクの整備工場を営む照矢の工場の営業時間は19:00迄だ。
シャッターを降ろして片付けを終えた頃に、自分が整備した聞き馴染んだルナの単気筒エンジンの音が聞こえ顔を出したと言うところだ。
すると愛娘が弟のカイトではなく違う人物を連れて帰って来てるじゃないか。
' えらく長身なお嬢さんだな。モデルでもしてる娘か? '
少年の後ろから現れた照矢は、その髪の長さと細めの体格から少年を女性と勘違いしていた。
「あ、父さんこの彼は…… 」
ルナが発した言葉に、照矢は
' 彼は? '
と疑問を持った瞬間、少年が振り返った。
「お邪魔してます。よろしくお願いします!」
少年は笑顔で丁寧な挨拶をして来た。
照矢の目が丸くなった。
「あ、あぁ、いらっしゃい!…… よろしくお願いします 'え、男!?よろしくお願いします??何を?! , 」
思わず営業トークの様な挨拶が照矢の口から出てしまった。
ルナから見ても瞬間的に父が挙動不審になったのは一目瞭然だった。
' アハハ…… そりゃそうよね、私も今そんな状態だもの '
ルナは心の中でそう呟かざるを得なかった。
照矢はこの謎の少年に少し驚いたがルナに大事な事を伝えた。
と言うか混乱した自分を落ち着かせる為の時間稼ぎの為だったのだが。
「あ、ルナ。お前今日は稽古日じゃないのか?」
「あ、そうなんだけどちょっと行けそうにないから、道場に電話しなきゃ!」
ルナは説明途中の少年を指差しながら慌てて行動し始めた。
「ちょっと電話してくるから、君、待ってて!」
「ハイ」(にっこり)
少年は緊張など知らない様だ。
ルナは今電話を携帯していない。それにはちょっと理由があった。
照矢は親バカ全開で頭をフル回転させていた。
' ルナが電話をしてる間にこの少年の情報を得なければ! 娘の彼氏の器がこの少年にあるのか!? どう見てもルナより年下だし…… カイトと変わらないくらいの年頃だよな。そして何より…… 弱そう…… ルナ、この少年の何処に惹かれたのか!? '
等と勝手な妄想に膨らませていた。
少年は不思議に思ったが変わらず笑顔で照矢を見つめていた。
照矢は決心した。そして少し威厳のある声色で少年に問い掛けた。
「ルナの父の灰月照矢です。君の名前は?」
「ボクはカミナと言います。娘さんはルナさんと仰るんですね」
' ん?ルナの名前をこの子は知らない? '
…… そこでやっと照矢が自分の考えが先走った妄想だと気付いた。
照矢は照れ隠しで頭を掻いた。
「あ、ああ、あれ?カミナ君は…… 初めてルナと会ったの??」
カミナと名乗った少年はコクンと頷いた。
「困っていたところをルナさんに助けて頂いたんです」
「あ、ああそうなの!ルナがね!」
照矢は少し声をうわずらせて答えた。
' …… ルナめ、またお節介病が出たな…… '
ルナの父である照矢は状況をおよそ理解した。
ルナの長所の一つが人助けをするところだ。
しかしそれで愛娘が危険な事に巻き込まれるのは父親としては心配の種だ。
先日もボールを追って道路に飛び出した男の子を助ける為に、ルナも道路に飛び出して男の子を助ける事件があったばかりだ。
ルナは考えるより先に身体が反応するタイプなのだ。
その時に身代わりに車に轢かれたのが…ルナの携帯だ。
だから今ルナは電話のある部屋に行く羽目になってる訳だが。
「ルナは困ってる人を見ると助けないと気が済まない性分でね。カミナ君はどうしたのかな?」
照矢は何となく嫌な予感を感じながら尋ねた。
「ルナさんはボクを手当てして下さるそうです!」
目をキラキラさせながら言うカミナ。
照矢は自分の想像とは違う答えに少し安堵しつつ、違う心配に驚き尋ねた。
「カミナ君、怪我してるのかい!?」
' やけに元気そうだけど?? '
「怪我と言うか故障です」(にっこり)
「「故障っ??」」照矢・ルナ
戻って来たルナの声と照矢の声がハモった。
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