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~13. 幕間の二人
二人の乗った連絡艇は、間もなく地球と月との重力がバランスするラグランジュポイント、そのラグランジュ1に存在する宇宙ステーションに到着する。
時間は二人が新種子島宇宙センターから打ち上げられてから三日目に入っていた。
時に新星暦0049年11月11日…
この間ルナとカミナは様々な会話をした。
時間は二人が連絡艇に移乗した日に遡る…
「ルナさん… いやルナ。どうしてさっき地球へのメッセージの中でボクを愛してると言ったの?」
カミナの腕の中にもたれ掛かる様にしているルナに尋ねた。
カミナはルナの事を『ルナさん』から『ルナ』と変えていた。
KAMINAはアシュレイ博士に対しては親しみを込めて『アシュ』と呼んでいたが、打ち上げ前にルナにアシュレイ博士の記憶を持っているが『アシュ』ではなく『灰月ルナ』である事を強く念を押されたからだ。
それと、カミナとしてはルナに対して芽生えていた『好意』を、ルナも自分に対して抱いている事を世界に向けて発信した事で、
昔『アシュ』と呼んでいた様にルナに対しても親しみを込めて『ルナ』と呼ぶ事を選んだのだ。
ルナはカミナの問い掛けに少し顔を赤らめながら答えた。
「それは… なんて言うか… ほら、カミナくんはアンドロイドじゃない?
私は人間でしょ?…
普通の人はそんな人とアンドロイドの恋愛なんて叶う筈ないって思うの… 」
「そうなんですか?何故ですか?」
「人とアンドロイドが恋愛関係になった事がないからよ…
人間はね、前例を踏襲するものなの。だから前例の無い初めての事に対しては懐疑的になるのよ…
だから今回の前例があるエラスティスの接近には、多くの人が月の涙事件と同じか、もしくは人類は今度こそ滅びると思ってるのよ… 」
カミナはそのルナの説明に得心がいった。
人間の情報を監視していたKAMINAは、電波やインターネットの情報を分析していて、人間のそんな傾向を認識していたからだ。
「私だってその可能性を否定出来ないし…
でもそれはこれからの私達の行動に掛かってる…
私はカミナくんへのこの気持ちを…
カミナくんとの関係をちゃんと地球で待っている人達に伝えて、成立させる事で… 」
ルナはカミナの腕の中に居ながらも恥ずかしくて気持ちを遠回しにゴチャゴチャと話し続けていた。
「ルナ、簡潔に話して」
「わ、分かってるわよ!」
カミナは勿論イライラして言った訳では無いのだが、空気が読めていない。
単純に早く結論を知りたいが故のルナへの注文だったのだが…
「つ、つまりね… 皆の絶望感を私達がくっつく事で希望に変えたかったの… 」
ルナは精一杯分かり易く簡潔に想いを伝えた、つもりだった。
「そうなんですか?ボクとルナがくっつくと人間の絶望は希望に変わるんですか?
じゃあ、今のこのボク達の姿も地球に向けてスグに放送しましょう!」
「ちーがーうー!」
ルナはガバッと身体を起こし、慌ててカミナの行動を止めた。
… 仕方ないのだがカミナの鈍さにルナは参ってしまった。
「え… よく分からないな… 」
カミナは真剣に分からないと言う顔をしている。
… ルナは観念してキチンと言葉にして伝える事にした。
「… カミナくん、ちゃんと話すからよく聞いて… 」
カミナはルナを見つめ、キョトンとしたままコクリと頷いた。
「人はね、不可能と思える事柄を現実として見せられた時に、それを『奇跡』と表現するの。
奇跡を目にすると人は『不可能じゃない、可能なんだ』と信じる気持ちが生まれるの。
信じる想いは希望に繋がるわ。
希望は生きる気力になる。
勿論全員が信じる訳ではないけど…
でもだからこそ、私とカミナくんの間に…
つまり前例のない『人間』と『アンドロイド』が愛し合うと言う『奇跡』起こしてみせれば希望を抱いてくれる人がきっと増えると思うの
だから私は地球で待ってる人達に希望を持ってもらえる様に、あの時メッセージとして発信したのよ。
でも誤解しないで。
私は…
私は本当にカミナくんの事を…
貴方の事を愛してるわ」
そう言うとルナはまたカミナの肩に頭を預けた。
「… 分かりました。でもどうしてルナはボクを愛してくれたの?」
カミナの質問はいつも直球だ。
「どうして?… そうね… 何故かしら… 」
「ルナにも分からない?」
少し考えて口を開いた。
「愛してしまった理由… カミナくんと出会ってまだ二週間も経ってないけど…
今私達は二人で地球を救う為に力を合わせてここ迄来る事になるだけの密度の濃い時間を過ごして来たわ…
偶然と必然の両方が作った出逢い…
179年の時を越えて、このタイミングで私達は巡り会った。
それはDNAにまで刻まれた運命の人…
私は命を救われたし、その為に貴方は一度命を落とした…
そして今私達は命を懸けて人類最大の困難に立ち向かってる。
こんなパートナーには地球上探したって出会えないわ」
ルナは自然にふふっと微笑んだ。
「ありがとう… ルナ… ゴメン… 」
カミナはルナの肩を抱いた。
「… どうして謝るの?」
カミナは少し悔しそうな表情をした。
「ルナをもっと早く見つけられていたら、こんな危険な事に付き合わせなくて済んだのに… 」
「そんなこと…
このタイミングだったからエラスティスに立ち向かえるし、私はアンドロイドの貴方を愛する事が出来たのよ。
最高のタイミングじゃない」
「でもルナ… せっかくボクを愛してくれてもボクはルナの遺伝子を残せない」
「私の遺伝子?カミナくんとの?
アハハッ そんな事気にしてくれるんだ!」
「お、おかしいかな?… 」
カミナは少し恥ずかしそうに頭を掻いた。
「… ううん、おかしくないよ。嬉しい…
そうねぇ… カミナくんと私の子供かぁ…
どんな子供になるんだろうね…
新人類なのは確かね!」
ルナはフフッと笑った。
「… でも、まずは帰れる場所を護らなくちゃね。私達はその為に今ここに居るんだから」
「そうだね。ボク達は地球の未来の為にこのミッションを必ず成功させなきゃならない。
そうじゃなきゃ、ボクの存在すら無意味になってしまう」
' そう、ボクはルナを月へ連れて帰るだけじゃない。ボクらの未来を護る為にも、己の存在意義を懸けて必ず成し遂げてみせる!'
KAMINAは自分の想いを誓いに変えて、エラスティスから送られて来る情報から対策を講じ続けていた。
そんな事をしている間にもエラスティスの脅威はどんどん近付いている。
地球では二人の乗ったロケットの打ち上げ成功に喜ぶ間も無く、避難の為の準備が慌ただしく進められていた。
現実的には逃げ場など存在しないのだが…
それでもルナとカミナを知る者は、決して希望は捨てなかった。
もし希望を捨ててしまう事があったなら、それは命を懸けて宇宙まで行った二人を裏切る事になるとの想いがあったからだ。
粛々と自分達のやるべき事をやる。
それが二人への信頼の証でもあった。
ルナとカミナは、次の幕が上がるまでの僅かな間を連絡艇の中で肩を寄せ合い眠りに着いていた…
第三章. KAMINAの想い END.
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