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じつは、どこの市区町村にもごくごく限られた関係者しか知らない秘密の課が存在する……それが、わたしの配属先である〝死民課〟だ。
音は同じだが市民課ではなく、死民課である。
まさに読んで字の如く。市民課が生きてる人間を相手にするのに対し、市内の死者に関する行政手続きを担うのが死民課の職務で、例えば、生前の戸籍から死後の鬼籍に異動させたり、市中の浮遊霊がちゃんとあの世へ行けるよう指導をしたり、お盆やお彼岸に現世へ帰って来るためのパスポートを発行したり……とまあ、そんな感じのお仕事である。
この死民課、つまりは〝幽霊〟相手の行政サービスのため、他の一般的な部署と職務形態も大きく異なっている。
勤務時間も日中ではなく夜の11時30分~朝の7時までの真夜中だ。ちなみに死民の皆さまの利便性を考え、夜なら誰も使っていないからと、昼間は市民課になっている市役所一階フロアを使っている。
相談や手続きに来る死民の皆さまも10人に1人くらいは顔が潰れていたり、片方の手や足が千切れていたりするし……ま、そんなビジュアルにはもう慣れたけど、いまだ昼夜逆転生活で友人達とも遊べないし、一年間なんとかこの特殊極まりない環境でがんばった末、わたしは迷わず職員課に異動願いを出した。
すると、意外にもあっさり念願かなって、めでたく異動となったのであるが……その異動先が、またわたしの想像の斜め上を行く、なんと、〝閻魔王庁への出向〟だったのである!
いや、一瞬でもよろこんだわたしがバカだった……今度は幽霊相手の職場どころではない。勤務地はあの世…しかも地獄なのだ!
この閻魔王庁への出向、現世でいえば国の中央省庁で勤務するようなもので、死民課職員にとっては同僚も羨む出世コースらしいのだが、わたしとしてはまったくもってうれしくもなんともない。
なのになぜ、特に霊能力があるわけでもオカルトマニアなわけでもないわたしがこんな死民課出世コースに図らずも乗ってしまったかといえば、それは、ひとえにわたしが〝小野篁〟の子孫だからである。
小野篁――今から1200年ほど前、平安時代初期に活躍した貴族で、文才に明るく、法律にも詳しい有能な官吏だったが、その才覚を以て昼は朝廷に仕える一方、夜は京都の六堂珍皇寺にある井戸を通って、地獄の閻魔王庁にも出仕していたという伝説の人物である。
この前、閻魔大王様も話していたのでどうやら本当のことみたいだが、その篁さんの末裔であると、わたしの家では伝わっている……。
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