冥界の服役所

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 で、そんなご先祖様のブランド力が働いて、本人の意思は関係なく、ミーハーな上司達が乗りたくもないエリートコースにわたしを乗せてくれたというわけである。  そして、今、閻魔王庁で働いているわたしは出向職員の慣例に則り、実際に〝地獄〟を見学する研修の真っ最 中なのだ。  いくら特殊とはいえ、市役所職員のわたしにそんな研修必要あるのかと甚だ疑問なのではあるが、思わずそう呟くと、直接お手伝いをしている司禄(しろく)司命(しみょう)という十王(※閻魔大王を含む、亡者の裁判を行う十人の裁判官)の書記をしている二人に、「地獄は亡者がその罪に応じて刑に服する冥界の服役施設……ここもある種の役所といえよう」と答えられた。  なるほどお…とその時は思わず納得してしまったが、よくよく考えたらそれって刑事の担当であって、一般行政職のわたしにはやっぱり関係ないような……ま、それを言い出せば、この閻魔王庁自体、裁判所みたいなものだから、行政ではなく司法の範疇なんだけど……。  それでも、死民課で行っている鬼籍登録は閻魔王庁の裁判を受けるために必要不可欠だし、なにかとわたし達の仕事とは切っても切り離せない間柄にある役所なので、こうした出向があったりするわけだ。  そして、その閻魔王庁の判決次第で行くこととなる、この〝地獄〟を実際に見て回る研修も……。  ちなみに地獄には〝八熱地獄〟と〝八寒地獄〟という熱いのと寒いのがあるみたいだが、中秋~春シーズンにこの研修を受ける各市区町村の出向職員はわたしと同じこの〝八熱〟の方で、初夏~初秋シーズンの者は冷たい〝八寒〟の方と、一応、なるべく快適な職場環境を提供できるよう閻魔王庁の方でも気を遣ってくれているらしい。  だが、そんな熱さ寒さも感じなくなるくらいの衝撃的な光景が、先程からわたしの目の前でめくるめく繰り広げられている……。 「――ひぃ…ひぃぎゃあぁぁぁぁーっ…!」 「うっ……す、すいません。やっぱ、もう無理です……」  また一人、亡者が鬼の金棒に頭を潰されて脳みそが飛び散る瞬間を目の当たりにして、何か酸っぱいものの込み上げてきたわたしは口を押えると、断りを入れてからその場を逃げ出した。  こんな残酷でスプラッターな絵面、どう考えても普通の人間には堪えられない。というか、サイコ脳か猟奇趣味の人しか受け入れられないだろう……全国の各死民課から閻魔王庁へ出向して来る者の中には、このツアーだけで壊れてしまう人もいるに違いない……。  涙目になりながら、引率の上級獄卒のもとから離れたわたしは、ちょうど見つけた大岩の背後へ身を隠すようにして駆け込んだ。
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