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さらに第五階層、〝大叫喚地獄〟では……。
「――た、助けてくれよ! 俺だよ俺! 俺だってば!」
「……え? も、もしかして、おまえは生き別れた息子のタカシか!? おまえ、タカシなのか!?」
「そ、そうだ! タカシだよ! なあ、オヤジ、頼むから助けてくれよお!」
「よし! 今出してやるからな。ちょっと待ってろ! ……て、んなわけあるかい! おい、かまわねえ。たっぷり炙ってやれ」
薪に囲まれた鉄の檻は前のとこと変わらなかったが、なんだかオレオレ煩い中の亡者達を、悪ふざけした鬼がノリツッコミしながらいたぶっていた。
ここに来るのはさらに妄語(※嘘)の罪も加算された亡者なので、どうやら生前、架空請求詐欺グループにいた輩が多いらしい……この地獄も、ちゃんと世相を反映しているのだ。
さあ、どんどん行こう! 次、第六階層、〝焦熱地獄〟は……。
「――暑ぅ~……ここ、なんか前のとこにも増して暑くありませんか?」
「ああ、この極熱で亡者を焼き続けるのがここの特徴だからな。名物は亡者の鉄板焼きと串焼きだ」
見るからに暑苦しい赤い大地にむっと立ち込める堪え難い熱気、陽炎に歪むその景色の中で、獄卒の鬼達は額に汗しながら亡者を鉄板の上でサイコロステーキが如く小さく刻み、また、そのブロックを串に刺して炭火で丁寧に炙っている……。
黒縄地獄でも亡者の肉を焼いていたが、さらにここは手が込んでいるみたいだ。
「牛頭様~っ! 馬頭様~っ! た、大変です! また獄卒が一人、熱中症で倒れましたあ!」
だが、わたしが暑さにヘタリながら牛頭馬頭さんの説明を受けているところへ、両手に焼き鏝を持った鬼の一人が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「なに!? またか! もうこれで今月何人目だ? 最近の鬼は根性なさすぎるぞ!」
「いや、地球温暖化で以前よりも温度が上昇してるんだろう。こまめな水分補給を徹底させるとともに、これはもっと短時間での交代制を導入にした方がよさそうだな」
鬼の報告に、牛頭さんと馬頭さんは真剣な様子で話し合いを始める……地獄も、働き方改革が必要な時代となったようだ……。
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