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最初の記憶、母親の胎内でのモノですら澱んだ色をしている。
『妊娠なんて!したくなかったのに!アンタのせいでしょ?』
『なっ、お前だって大丈夫って』
『違うし!そんな事言ってない!アンタが勝手に…』
要するに、望まれない妊娠だったらしい。
ゼロ歳。この世に生まれでた瞬間に祝福してくれた助産師の言葉は、濃いグレーをほんの少し薄めたに過ぎない。
―――どこか、もっと他の記憶は……。
三歳。やせ細った身体に、サイズの合わない服を着て指を咥えた姿が痛々しい。
―――ダメだ、これじゃない……。
五歳。粗相をしたと風呂場に立たされ、冷水を浴びさせられ、泣きじゃくる姿。
―――ああ、これも違う。
一つずつ、悲しい記憶を消してやる。一点の曇りなく清らかな魂の状態にしてやるのが望ましい。
だけど、ただ記憶を全部吸い取って、まっさらにしたんじゃ技がない。全ての記憶を跡形もなく掃除して、ただの無色透明の魂にするなんて、そんなのは下級天使のする事だ。
ここは上級天使の腕の見せ所。何か一つでも、この世に生まれてきた証を魂に刻んでやりたい。
そうは思っても、掃除する記憶が多すぎて作業がなかなか進まない。
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