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八歳。両親とは違う男女の元で暮らすソイツの姿。少しづつ薄まる灰色には、希望の兆しが見える。
警戒しながらも、少しづつ少しづつ心を許していくソイツの姿はまだ痛々しいし、涙を誘う。
だけど、やがて仄かに薄いピンク色に染まる記憶に行き当たった。桜の花びらのように儚げなピンク色のそれは、ソイツの記憶の中で唯一と言える美しい色付きの記憶。
『これ、あげる』
ツイと差し出された少女の手に握られていたのは、一粒十円のチョコレート。ピンク色の包み紙はイチゴ味らしい。
『ぼ、僕に? 何で?』
『いつも頑張ってるから。頑張ってる人にはご褒美があるんだよ』
屈託の無い少女の笑顔に固く閉ざされていたソイツの心が、ちょっぴり緩む。
『あのね、頑張ってる人はカッコイイんだよ』
少女は少し頬を赤らめて、はにかむような笑顔に変わる。それだけ言うと、唐突にくるっと向きを変えて走り去る少女。ソイツは彼女の背中で揺れるポニーテールを見えなくなるまで見つめていた。
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