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―――良かった。
一つだけあった美しい記憶のその後は、また暗い記憶が続く。一時期預かってくれていた親切な夫婦に代わり、次々と親戚をたらい回しにされ、やがて盗みを仕事のように繰り返していく。
僅かな美しい記憶を消さないように慎重に力をコントロールする。仄かな光に全ての意識を集中させて、それ以外の暗い記憶を吸い取る。
最後の揉み合いまで、丁寧に消し去り掃除は終了だ。
ホッと肩で息をつく。亡骸の横で泣いていた姿は消え、ほんのり桜色を含んだ光に輝く球体が浮かんでいる。
「良かったな………行くか?」
球体が少しだけ上下して光が煌めいた。どうやら頷いたらしい。
天上界ではキラキラと輝く無数の球体がフワフワ浮かんだり、クルクル回ったりして戯れている。
美しい煌めきの中に、桜色の光も吸い込まれるように紛れていき、すぐにどれがどれだか分からなくなった。
―――ふう。今日の大仕事は一つ完了だ。
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