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魔界書庫へ
「お姉ちゃん大丈夫かな。倒れてから全然起きてこないよ。契りの間で何があったのかな?」
「心配しないで。ルシスは疲れて寝ているだけよ。」
「2人とも今日は、悪魔と契約して疲れているのだから、お部屋に戻ってゆっくりと休みなさい。ルシスは私がみておくわ」
「はい。お母様。でもお姉ちゃんが、目を覚ましたら、絶対に教えてくださいね」
そういうと、2人は自分の部屋に戻って行った。
これは大変なことになったわ。2人にはルシスは疲れて眠っているだけと言ったが、それだけではない。
ルシスから、魔力が全く感じとれない。しかもそれだけではない、生命の源となる魔石の光が消えているのである。
私達魔族の魔石は、紫色に輝いている。しかも上位魔族は紫ではなく黒く輝いてるのである。
もちろん魔王の子である3人は、黒く輝いてるが、ルシスもっとも黒いベンタブラックである。
輝きさえも闇に包んでしまう、ベンタブラックの魔石は伝説にしか聞いたことがなかった。
そんな魔石を持つのがルシス。だからこそ、この子が歴代最高の魔王になると信じて疑わなかった。
そして弟2人も、姉を超える事なんて絶対にできないと感じでいたのである。
それなのに、今は輝きを失い白く濁った魔石になり、魔力数値が0になっている。すなわち死んでいる状態なのである。
しかしルシスは、ちゃんと息をしている。死んではいないのである。いったい契りの間で何が起こったのであろうか?
この子が目が覚めた時、確認しないといけない。
否、もう理由なんてどうでもよい。魔石が白くなってしまったことは、変えることのない事実であり、なんとしてもこの事実を、魔界に知られてはいけないのである。
魔界、いや全世界の均衡を保つためには、この事実を知られるわけにはいかない。次の魔王にはカァラァかリプロになってもらえばよい。
2人の力もあの子には劣るが、先代の魔王と同等の魔力は持っているのだから。
「このまま死んでくれたら1番良かったのかも…」
ぽろっと心にもないことを呟いてしまった。
周りには誰もいない。いるのは眠ってるルシスだけ。このまま殺してしまった方が魔界のためにもなるのかもしれない。
いやダメだ。いくら能力を失ったからと言って、我が子を殺すことなんてできない。
どうしたらいいものか?たぶんカァラァもリプロも、あの子が魔力を失っている事は気づいたはずだ。
それでも、ルシスが大好きなのは、変わりないみたいだ。突然ルシスが魔力を失ったが、すぐに魔力を取り戻すと思っているのかもしれない。
私はそんな甘い考えを抱くわけにはいかない。15歳なると魔王が誰になるか、魔界大総会で決定される。
まだ10年もあるが、それまで私が魔王補佐官として、この魔界を守っていかなければならない。
小さな希望を抱くより、確実に力があるカァラァとリプロをしっかりと育て上げなければない。
ルシスには悪いけど、わずかな希望を信じて、ルシスに構うわけにはいかないのでる。私は母親である前に、魔王不在の15年、魔界の平和と秩序を守る魔王補佐官なのであるから。
とりあえず、ルシスは、地下にある魔王書庫に幽閉することした。公には難病にかかり治療の為に、地下施設で療養していることにしよう。
魔力も失ったからといってもルシスは私の子、やはりわずかな希望は捨てる事は出来なかった。
あの子は3歳の頃から、本が大好きで、いつも魔王書庫にこもって本を読んでいた。せめてあの子の大好きな本に囲まれた場所で、過ごさせてあげようと思った。
私は、こぼれ落ちそうな涙を堪えて、ルシスを魔王書庫へ、幽閉するようにナレッジに命じた。
私の体はどうなっているのだろうか?ぜんぜん力が入らない。まぶたさえ開く力がない。お母様と弟達が会話しているのは聞こえるのだけど、言葉も出すこともできないのである。
これが天使様と契約した代償なのかな。私はこのまま植物人間のような生活を、後5年も続けないといけないのかしら。
これがミカエル様のいう頑張れと言うことなのかな?少し酷くないとかなと、涙も声も出せない私は、ただじっと悲しみに打ち震えていた。
「これは一時的なものですよ。」
どこからか声が聞こえてきた。
私は声を出すことができないので、心の中でさけんでみた。
「あなたは誰なの?どういう意味なの?聞こえてるなら返事してよー」
「動揺する気持ちわかるわよ。動くことも、喋ることもできないのだからね。私はガブリエルよ。覚えているかしら。今は喋ること、動くことはできないが、明日になれば、多少は動ける筋力は、戻るはずよ。魔石を白くして、全ての魔力を奪ったから、その反動で体が動かないだけだから、安心してね」
そういうとガブリエルの声は届かなくなった。
私はガブリエル様の説明を聞いて、少し安心した。明日になれば、普通の生活ができるみたいである。明日にでも、お母様にこの件を説明して、理解してもらわないといけないのである。
その時、お母様の声が聞こえた。
「このまま死んでくれたら1番良かったのかも…」
そんな…お母様がそんなふうに思うなんて。私は涙が止まらない。実際には涙など出ていないのだが。
お母様にとって、魔力を失った私なんて、もう必要ない存在だったなんて、たしかに私は、膨大な魔力を持っていて、3歳になった頃から、魔王になる為に英才教育を受けていた。
でもお母様からは、それ以上に愛情を持って、育て上げてくれていたと、感じていた。私は、魔王の子に転生しても、なんの不安も感じることなく、魔人であることを、受ける入れる事ができたのは、それは、お母様の愛情のおかげでもあったのに。
私は悲しくて、考えることすらできなくなり、そのまま、意識を失ってしまったのである。
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