人界へパート1

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人界へパート1

      あの子を書庫に幽閉して、5年が経過しようとしていた。もしかしたら、あの子に魔力が戻るかもしれないかと、淡い期待を抱いていた。  私は、この魔界で1番知識のあるナレッジに命じて、あの子の魔力が、回復する手段がないか、調べるように命令していた。  ナレッジとは魔王参謀長官であり、魔界随一の知恵者でもあった。    しかしナレッジからは、このようことは前例がなく、いくら調べても、解決策は、みつからないとの報告であった。  しかも、魔石が元の色に戻らなければ、魔界に発生してる瘴気に耐えられなくなり、いずれ命をおとす危険があるということであった。  そう、長くても10歳の誕生日まで、かもしれないと。  私は、あの子を書庫に閉じ込めてから、1度もあってはいない。それにはきちんとした理由があった。  この魔界では、常に魔の瘴気が発生している。魔の瘴気とは、魔族にとって魔力をさらに高めることができるエネルギーみたいなものだ。  しかも魔族以外のものが、この瘴気を吸い込むことは、毒を吸い込むことになる。  魔界にて、魔の瘴気がないところは唯一契りの間だけとなっている。魔の瘴気は、悪魔でさえ嫌うと言われているからである。  白く濁った魔石になったあの子が、この世界で生きていくのには、かなり厳しい環境なのである。  だから、私は魔王書庫には結界をはり、瘴気が入らないようにした。だがそれでも完全に防げるわけではない。ナレッジの報告通りなら、この結果の中でも5年が限界である。  そして、瘴気の浴びた者も、絶対に近づけないようにした。しかし一度だけ、理由を知らないリプロが、あの子に会いに行ったと、ナレッジから報告があった。  2人の弟には、なぜ近寄ってはいけないか、またなぜ幽閉しているか、きちんとした説明をしていなかった。  でもこのままでは、また同じように、あの子に会いに行くことになると思い、2人の弟には、きちんと説明して納得してもらった。    もう5年近くも幽閉して、会いにさえ行っていないから、あの子は私を恨んでいるのかもしれい。どんなに怨まれても、私は構わない。でも母親として、あの子は、絶対に助けてあげなければいけない。  しかしあの子に残された時間は、残り少ない。いくら調べても、魔石を元の色に戻す方法は、見つからない。  10歳になるまであと1日、あの子の寿命は、もう長くはない。あの子のために私は、何ができるのか?  魔王補佐官として、魔界の平穏を保ちつつ、魔王を育てる母親として、2人の息子の訓練もきちんとこなし、2人の息子のうち、どちらかが、魔王になってもおかしくないくらいの力をつけさせた。  ただ一つ、あの子を救うことは、私にはできていない。あの子さえ救うことが出来たら、魔界が滅びようと、2人息子が魔王にならなくても、かまわないと私は思ってしまう。  あの子を助けたい。私はどうしたらいいのだろうか。もうあれこれと迷っている時間もない。  私は、あの子に会いに行ってはいないが、毎日、魔王補佐官としての業務などを終えて、20時頃に、必ずあの子の状況を確認していた。  書庫に閉じ込めてから、1ヶ月くらいから、あの子はかなりの体力を消耗し、眠ってる時間が長いみたいだ。  しかも年を増すごとに、その状況は酷くなるばかりである。  このままでは、明日になれば、確実に死んでしまうのかもしれない。私は大きな決断をすることにした。  あの子を人界へと送ろうと。  人界なら、魔の瘴気も存在しない。しかもあの子は白い魔石なので、魔人とは、誰も思われない。頭に二本のツノがあるから、亜人だと思われるだろう。  人界と魔界を繋ぐルートは、少ない。なので、亜人の国には送ることはできないのが、残念なことである。  亜人と友好的な、あの町なら大丈夫かもしれない。そして、わたしはあの町のちかくにある森へ、あの子を送る事にした。  あの子は頭の良い子だ。魔力がなくても、人界なら強く生きていけるはず。それにもしかしたら、人界で魔力を復活できる可能性も、あるかもしれないのだから。  このまま魔界で死を待つより、人界へ送る方がよいと、私は決断した。  私のかわいいルシス。あなたを救えなかったお母さんを許してね。  そう心です呟いて、わたしはナレッジに、ルシスを人界へと連れて行くように命令を出した。    「これで、1人魔王候補が減ったな。生きていても邪魔だから、魔獣のエサにでもしてやるか。」
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