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オレンジ色のグラス
身体中についた跡を見て、私はあれが夢では無かったのだと知った。
何度も好きだと言われて、抱かれた。
「リナさん、また会ってください。絶対に」
断片的に思い出す彼の言葉や触れる手。すべて優しくて温かかった。
あんなに身体中の全てを擦り合わせたのに、彼がどこに住んでいて何の仕事をしているのかも知らない。
でもそれでいい気がした。
二週間後にまた会って、私はジュンに抱かれた。今度はシラフで。
彼の筋肉質な腕は簡単に私の身体を持ち上げて好きな形に変える。
お酒も飲まず、クスリの煙も無い状態で、何をされても気持ちがいいなんてことがあるなんて知らなかった。
「リナ、愛してる。大好き……」
そう言って彼は何度も私の中で果てた。
彼は、簡単に女が喜ぶ言葉を口にしすぎる。
「……ねえ、ジュン、そんな言葉簡単に言っちゃダメ」
「どうして? 今日僕が帰りに事故に遭って死んだらもう言えなくなるんだよ?」
「そんな例え、変でしょ……」
ベッドを出る前に、私を引き留めてジュンは言った。
「ねえリナさん、これ、つけてて」
彼は自分の耳から一番小ぶりなピアスを外すと、私の何もつけていないピアスホールに挿して止めた。
「じゃあ、私のはこれあげるね」
私は彼には小さいかもと思ったけれど、手首につけていた天然石とチャームが混じった民族調のブレスレットをあげた。
「ありがと。大事にするよ」
早朝の帰り際にジュンは白い息を吐きながら言った。
「リナさん……多分今まで好きになった人の中で、あなたが一番好きだよ」
額にキスをすると彼は笑顔で歩いて行った。
何度も振り返りながら手を振って。
私もそうだよ、って言いたかったけれど言えなかった。
それから、ジュンからぱたりと連絡が来なくなった。
逆に心配になって、私から元気かどうか連絡をしたけれど、既読になっても返事が来ない。
何度か既読無視をされて、もう不安でメッセージを送ることが出来なくなった。
「やっぱり、遊びだったんだろうな……」
ホテルで二回会って抱き合っただけ。でも優しく触れて素敵な言葉をたくさんくれた。それは嘘じゃなかったと思う。
嘘であんなに時間をかけて愛してくれないと思うから。
きっと彼女にバレたりしたんだろうな。
いい思い出に、しなくちゃ……。
季節は真冬から桜が満開の春に変わっていた。
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