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スポンジボブのスポンジ
たまに行く、ちょっとアングラ感のある雑貨店。
海外のマイナーなおもしろ雑貨から、ちょっと怪しげなハーブまで売っている。
いい年してこんな雑貨店に出入りする私もどうかと思うけど、そこのオーナーが仕入れてくる雑貨が個性があって、私がオーナーのファンみたいな感じで、十代の終わりからそこに通っている。
もう、十二年?十三年になるっけ?十代の女の子も三十代に突入してしまった。
ハーフの素敵なお兄さんだなって憧れたオーナーも、すっかりアラフォーだ。
「リナ、スポンジボブのスポンジ入荷したぞ」
「何それ!ネタ?」
「かわいいスポンジ欲しいって言ってただろ」
渡されたスポンジを見て笑った。これで食器を洗ったら、ちゃんとスポンジボブがスポンジだって毎回思うんだ、おかしい。
ケラケラ笑っていたら、雑貨店のドアが開いて、黒い長めの前髪にゆるくウエーブのかかっている男の子が入って来た。
「エリックさん、こんちはー」
「お!ジュン!久しぶりだな」
「夜勤続きで昼間は寝てばっかりで」
綺麗な男の子だなー!と素直に思った。きれいな顔をしてるのに、微笑んでいるのに、どこか自分を作っているような、そんな気がした。
第一印象でそう思うなんて失礼だな。彼は可愛い笑顔を振りまいているのに。
けれど、耳にたくさん開いたピアスや手に彫られているタトゥーが、似合っているのに似合っていない気がして、私はすごく違和感を覚えた。
どうしてそんなこと思ったんだろう。
「わ、これなんですか?」
彼は私が握っているスポンジボブのスポンジに興味を持ったようだった。
「スポンジボブのスポンジだって!面白いよね」
私は彼にスポンジを渡した。
「わ、変なの!」
と言いながら、手を握ってスポンジを潰しては開いている。
「おいジュン、一応商品なんだからあんまり潰しまくるなよ!」
オーナーが笑いながらたしなめた。
「お姉さんこれ買うんですか?」
「うん、どうしようかなって思って。ネタにはいいよね」
笑って見せると、彼は値段を確認してから言った。
「エリックさんこれ、二つください」
「お、毎度あり。二つも買うってお前そんなに自炊したっけ?風呂でも洗うのか?」
「お姉さんにあげる」
突然そんなことを言われて、私は戸惑った。
「あ、あの私自分で買うからいいよ?」
「わはは、またジュンの不思議な癖が出たな。リナ、コイツは店で会った人に何か買ってやるんだ、時々こんな風にな」
「何で?」
私は訳が分からなくてじっと彼の顔を見た。
「お姉さんの名前、リナっていうの?」
全く彼は私の質問には答えず、逆に私の名前を確認して来た。
「うん、そうだよ……」
オーナーが親切に二つの袋に分けて買ったスポンジを入れてくれた。
「はい、リナさん。これ、使ってください」
あまりにも笑顔で渡してくるから、断ることもできなくて。
「あ、ありがとう……」
「ジュン、リナはこの店の初期からの常連だからな、大切にしてくれよ」
オーナーがそんなことを言う。
「それなのに今まで一度も会わなかったですね。会えてよかった」
ああ、こういうことを綺麗な顔でサラッと言えちゃう子なんだ。
気をつけなくちゃ。
私は落ち着かなくなってしまって、今日は帰ることに決めた。またゆっくり店には来よう。
「ジュン君、ありがとうね。あ、じゃ帰ります。エリックさんまた来ますね!」
「おう、またな!気をつけて帰れよ」
オーナーが笑顔で手を振ってくれた。
「じゃあまたお会いしましょう」
見た目とは違う丁寧な言葉で私に挨拶したジュンは、笑顔で手を振った。
何あれ。何なのよあれは!
あんな綺麗な顔で、そんなに高くはないスポンジとはいえいきなりモノを買い与えて、またお会いしましょうだなんて!
私は今起きたことが信じられなくて、心臓をバクバクさせながら家に帰った。
また会おうだなんて、そんなことを私はもう何年も男の人から言ってもらっていなかった。
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