弐「ハイドライト」

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 朝食の後に樹鳴が「風呂に入りたい」と言い出したので、それを待っている間、前日に購入していたタブレットを起動した。今の今までまともに使っていなかった故に初期設定のままだったものだから、これから必要になるだろうと判断してのことだった。 「ネットワークってどうやって接続するんだ?」  スタートガイドを読みながらあちこち弄っていると、何かの画面がポップアップしていた。 「…………? 広告じゃないな、何かのバグか」  起動したばかりでそんなことあるとは思えないけれど。ストレージに最初から入っていたのなら、メーカーの情報かなと無視して閉じた。  よく見れば起動した時点で通信は始まっていたから、必要なのは今まで使っていたアカウントに連携することだった。  とはいえ、俺は特にSNSとかには手を出していないし、それほどやるべきことは無い。動画サイトくらいか。  云々している内に時刻が八時を回る。普通ならもう登校しなくてはならない時刻だったけれど、今日はそんなことを気にすることもなかった。端から見ればルール無用な感じが否めないけれど。 「んああぁ……」  思考を無理矢理に切断しようとして失敗する。まあいいかで切り替えられないのは、これからのことを考えると不利に働くのだろうとはおぼろげに理解できていた。 「どうしました?」 「おっと」  手足を投げ出して床に転がると、頭の辺りに樹鳴が座っていた。濡れた髪を真新しいタオルで拭いながら、不思議そうに俺を見下ろしている。 「なんでもない。もう少ししたら出るから、準備してきな」 「準備するものなんてありませんよ?」 「…………そうだったな」  失言というか、思慮が足りない言動だったかと反省しつつ起き上がる。  とりあえずで学校の制服を着ているわけだが、これからそういうものが無意味になる世界が薄らと見えていては、こんなものはただのコスプレかもしれない、そんなことを思いながら黒いブレザーを着込んだ。  そういえば中学のときは詰め襟だったな。あれは俺には致命的に似合わないので、この制服は助かっていた。  ネクタイ締めるの面倒だけれど。  中学の卒業祝いに父親が買ってくれた腕時計を着けるかどうか迷ってから、今日はいいかとデスクの引き出しに仕舞っておく。  樹鳴が自分の髪をサイドテールに纏めて(俺の部屋に髪ゴムなんてあるわけもないので、ただの輪ゴムだったけれど)、玄関でスニーカーの紐を結んでいる脇で、俺は鞄の中身を確かめる。  よし、と鞄を閉じれば、樹鳴が立ち上がり「行きましょうか」と促した。
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