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「まったく、みいこを見捨てるのかと思ったよ」
つくしの隣で千夏が呆れたように呟いた。
「そんなわけがないでしょ。安全な場所に置いておけばいいし、そもそも病院でなく神社に運ぶよう指示したのはちぃちゃんじゃないの」
「己が治療して面倒見るはずだったのにさ」
それ以上の緊急事態でしょ? とつくしは苦笑しながら返す。危機を徹底的に回避しようとする千夏の有り様は解っていたつもりだったけれど、ここまでだったとは思いもしなかった。
とはいえ、危急存亡の秋に逃げ出すような土地神は管理者として普通なのだろう。失われた土地に意味など無いのだから。
つくしは右手の指揮棒を素早く振り上げて振り下ろす。そこから黄色の霊力が走り、射線上の死徒を一息に呑み込んでいく。
「そんじゃまあ、はじめますか」
「何をするの?」
「ここまで大規模な魔術に対抗するための布石を打たないとねえ。それも綱取くんの時間稼ぎが成功しないとできないけれど」
呪詛返しか、とつくしは思い至る。元々は外国で「ミラーカース」と呼ばれた巨大な呪力反射陣の総称だったけれど、千夏はそれを進化させているようだった。
「シロツキ、って言うんだよ」
「ふうん」
適当に唸りながら指揮棒を振り続ける。つくしの霊力がどこまで持つのかは解らないけれど、ポケットには前日に渦錬に渡された星の砂が仕舞われていた。これも使うだろうな、となんとなく理解してはいたけれど。
「ちぃちゃん……」
振り返ると、千夏の姿は既に見えなかった。逃げ出したわけでないことは解っていたけれど、土地神らしくマイペースな考え方のようだった。
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