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「久場垣君―――大瀧理満は緑君の提示したルートでロンドンに繋ぐことには成功したよ。彼は一流の幻術士でもあるし、まあ事情さえあればある程度は融通は利くかもね」
「悪いな、本当なら俺が母さんに掛け合うべきなんだろうけど」
いいんだよ、と萌崎君はひらりと手を振った。
「摘葉さんは僕と面識がないわけでもないし、どっちから声をかけても同じ結果になっただろうさ」
しかし緑君も摘葉さんも世界が広いね、と感心している風だった。俺にはそんな感じは解らないし、世界の広さで言うなら萌崎君の方が圧倒的に上だろう。
「僕にはつなげない世界ってのが存在するからね。特に心霊関係は異能者の僕には未知の世界だよ」
霊能者の知り合いとか祓魔師の知り合いは居るけれどね、と言うけれど。
「うーん。まあそれは個人差ってだけだろ」
「だろうねえ」
「で、そんな話をしたいわけじゃないんだろう?」
「そうだね。今までのは一応の報告義務だ。そしてこの内容は口外しないこと、いいね」
解ってるよ、と適当に返した。それに頷いて、萌崎君は机の上で手を組んで「どうだった?」と訊いてくる。
「……んー。別に悪くはないさ、中学生の時にやってたことの延長だからな。死にかけるのは予想外だったけど、それくらいは織り込むべきリスクだろう?」
「まあね。僕が一人でやってた頃も、命の危険はいくらでもあったからね、丁度よく気を締める要素さ」
一人でやっていた頃を見てみたいとは思わなかった。
どうせ俺よりは器用に立ち回っていたのだろうし、何の参考にもなりはしない。
「でも、それが原因で樹鳴を危険に曝すのは避けたいんだけど」
「解ってる。君は絶対にそう言うだろうと思っていたし、僕も同じ気分だよ」
じゃあどうするんだ、と問うた。
「専用武装のアイディアはあるんだ。異能を物理的にサポートすることはできないけれど、他の能力を伸ばすためのガジェット。まあ、それ以前に樹鳴ちゃんが普通以上の身体能力を持たないと意味が無いけれどね」
「筋トレはしたくないですよう」
あはは、と笑われた。
「必要ないよ。異能者は普通に暮らしているだけで飛び抜けているんだ。普段の生活で体力を戻せば普通の異能者と同等くらいになるだろうね」
「そうですか」
「さて、そろそろ起きてきてもいいんじゃないかな? シオラちゃん」
「むー。寝たふりだって知ってたの?」
机に伏していたシオラは眠気など微塵も見せずに起き上がる。
「さっき、こっちを見ただろう。気付かないと思ってた?」
「渦錬くんは目敏いなあ。どうでもいいけど」
立ち上がってこっちに来ると、足元から俺を見上げる。紅い眼が一瞬だけふるりと揺れた。
「大丈夫そうね。ちょっと不安だったけれど」
「何がだよ?」
「内緒。元気そうなのは解ったし、あたしはもう行くよ。次に行く場所がなかなか面白そうなのよね」
「そうか。どこに行くんだ?」
「陽山町。ここからはずっと西の方よ。緑君に次に会うのは当分先になりそうね」
元気でね、と言い残して彼女はさっさと部屋を出ていった。急いでいるようにも見えたし、焦っているようにも見えた。
「シオラちゃんは大瀧家と関わりがあったからね、今日はその調査をした後だったんだ」
「そっか。まあ、いいんだけど」
「死ななければ?」
台詞を先回りされた。驚きもなく、そうだなと頷いた。
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