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「なんだか色々大変になりそうだな……。高校生ってのも厳しいもんだ」
「緑さんの環境が特別厳しいだけだと思うんですけど、それは」
疲れの回復しきらない身体で動くのはなんだか重怠い。休日なのに学校へ行く方が間違っているような気もするけれど、そういえば今日は部活動の学生は見なかったな、と思い当たる。
ベッドの上でごろごろとしていると、樹鳴が隣に座った。
普段は結んでいる髪を下ろして、いつもよりリラックスした格好だ。
「緑さんは本当に請負人になるんですか」
「……いや、ここにいる間だけかな。今の有り様は渦錬の手足って言い方が正しいし、いつかは自分で能動的に職業は選ばなきゃならないから…………面倒いけど、逃げるわけにもいかないことだよな」
「そうですか」
何か思うところがあるようだったけれど、問うことはしなかった。
樹鳴がゆっくりと俺の背を撫でてきた。くすぐったいけれど、嫌な感覚ではなかった。寧ろ幼少期のことを思い出して懐かしい。
「……ぼくは、これから何をすればいいんでしょうね。いくら強力な霊力があるなんて言われても、戦うのは嫌いですし」
呟いた言葉に不安が滲んでいた。
「戦うのは俺だけでいいんだよ」
「え?」
「樹鳴は、最低限死ななければいい。生きることに懸命になればいい。それが出来ると俺は思うよ」
「…………ふふ、そうですか。じゃあ、緑さんも死なないでくださいね? ぼくを悲しませないで欲しいですから」
「そうだな……頑張るよ」
なんだか、そのやり取りが普通の同居人の関係とは違う気がして。しかしどこかで同じようなやり取りをしたことがあるような、よく解らない感覚に陥った。それは決して不快なものではなく、家族といるような暖かさを含んでいて。
「えへへ。一緒にいて欲しいなんて、思っちゃって……なんだか恋人みたいですね」
「…………………………」
赤面してしまう。心底の蟠りを一言で説明されてしまうと、あっさりとしたそれでしかなかった。いろいろ小難しく考えるのが癖になっていた頭を殴られたような気分だった。
「それでいいんじゃないのか、よく解らないけど」
素直じゃないですね、と樹鳴は笑う。顔を背けているので表情は判らないけれど、大体どんな顔をしているのかは想像できた。
結局、それだけのことだったのだろう。
高校生として、俺は何を得るのか、何を失うのか。
それはまだ判らないけれど、楽しい生活になればいいなと儚い願いを呑み込んで。
巡ってくる明日を思っては一喜一憂して、そうやって生きていく。
それを楽しむのが人生なのだと思っている。
俺の奥底にある軸が歪むことなく廻っている。それを確かめながら、着実に進んでいく。
その先にある情景は、きっと俺だけのものだろう。
了。
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