壱「ヴァリアントグリーン」

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「どういうことなんでしょうね」 『知らないよ。私は除霊師であって、占術師じゃないもの』  渦錬の耳に女性の声が滑り込む。 『全部、彼自身が望んだことでしょうに。いくらなんでもそっちまで気を回す余裕はないよ』  でしょうね、と特に否定もしなかった。 「僕は緑君が土地の守護者だったことも知らなかったんですけれど、どうです? 実力は保証できますか」 『どうかな。緑は集団で指揮する立場なら無類の強さを発揮するけれど、単体で見た時の実力となると、基本的には普通だと思うな』  ただ、と相手は続ける。 『感情を爆発させたときの力は比類ないよ。今までも無意識に「鎮静」を使い続けてきたからね。その力を解放したなら、確実に世界の脅威になりうる―――』  懸案事項だよ、と呟く。 「でも、緑君は世界の敵にはなり得ないでしょう」 『あは、そうだね。緑はむしろ世界に迎合するタイプだからねえ』  ふむ、と渦錬は思案するように視線を浮かせる。朧に天井を見上げる瞳孔に蒼い光が浮かび上がる。  僕には何も見えないんだけどな、と呟いた。 『渦錬君は、ああいうのは初めてなの?』 「そうですね、外種異能者と顔を合わせたのは緑君が一人目ですね」  大戦争でその力を用いたあの男は、画面越しにしか見ていない。それがどのような人物であれ、多分関わり合うことはないのだろう。 『そうなの。緑は扱いやすいから大丈夫とも思うけれど、だからって無理はさせないようにね』 「解ってますよ。さっき依頼を一つこなして見せてましたよ」 『え、初日から? 何をしたの?』  人助けですよ。そう言って、詳細を話すことは避けた。 「まあ、命がけで仕事するのも修行の内でしょう」 『そうだろうけど』  危険なことはさせませんよ。柔らかく言って、通話を終える。相手はまだ何かを言いたげだったけれど、渦錬には年上の女性に対して会話を続けることは苦手だった。 「彼の背景が大きいからねえ」  そんなことを緑は知らないけれど。少なくとも渦錬は知っている。  それだけのことだった。
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