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「どういうことなんでしょうね」
『知らないよ。私は除霊師であって、占術師じゃないもの』
渦錬の耳に女性の声が滑り込む。
『全部、彼自身が望んだことでしょうに。いくらなんでもそっちまで気を回す余裕はないよ』
でしょうね、と特に否定もしなかった。
「僕は緑君が土地の守護者だったことも知らなかったんですけれど、どうです? 実力は保証できますか」
『どうかな。緑は集団で指揮する立場なら無類の強さを発揮するけれど、単体で見た時の実力となると、基本的には普通だと思うな』
ただ、と相手は続ける。
『感情を爆発させたときの力は比類ないよ。今までも無意識に「鎮静」を使い続けてきたからね。その力を解放したなら、確実に世界の脅威になりうる―――』
懸案事項だよ、と呟く。
「でも、緑君は世界の敵にはなり得ないでしょう」
『あは、そうだね。緑はむしろ世界に迎合するタイプだからねえ』
ふむ、と渦錬は思案するように視線を浮かせる。朧に天井を見上げる瞳孔に蒼い光が浮かび上がる。
僕には何も見えないんだけどな、と呟いた。
『渦錬君は、ああいうのは初めてなの?』
「そうですね、外種異能者と顔を合わせたのは緑君が一人目ですね」
大戦争でその力を用いたあの男は、画面越しにしか見ていない。それがどのような人物であれ、多分関わり合うことはないのだろう。
『そうなの。緑は扱いやすいから大丈夫とも思うけれど、だからって無理はさせないようにね』
「解ってますよ。さっき依頼を一つこなして見せてましたよ」
『え、初日から? 何をしたの?』
人助けですよ。そう言って、詳細を話すことは避けた。
「まあ、命がけで仕事するのも修行の内でしょう」
『そうだろうけど』
危険なことはさせませんよ。柔らかく言って、通話を終える。相手はまだ何かを言いたげだったけれど、渦錬には年上の女性に対して会話を続けることは苦手だった。
「彼の背景が大きいからねえ」
そんなことを緑は知らないけれど。少なくとも渦錬は知っている。
それだけのことだった。
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