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男と女は同時に目を覚ました。男はワイシャツに黒のコーデュロイパンツ。女は臙脂色のタートルネックにタータンチェックのスカート。男は目をこすりながら周囲を見回す。
「……どこだ、ここは?」
自宅の寝室とは異なるその部屋はホテルの一室みたいだった。向こう側には二人がけのダイニングセット、壁面には絵画や大きな鏡、そして巨大なディスプレイが掛かっていた。
「どうしたの? え、ここ、何? キャッ! 貴方誰よ?」
ベッドの上の少し離れた場所で女も起き上がる。腕を抱えて左右を見回し、寝起きの体を強張らせる。
「誰って。君こそ誰なんだよ? 全然記憶が無いんだ」
「私も……。まさか、貴方私のこと……!?」
女は胸やお尻や頬を順に触って着衣の乱れがないかを確かめる。
「何もしていないよ! ……たぶん」
「ッ! たぶん!?」
女性は弾かれたように振り返る。肩まで伸びた長めのボブが揺れる。
「な、何もしていないよ! 俺だって今、目が覚めたところなんだ」
「嘘」
「嘘じゃないよ!」
「じゃあ、どうして私たち、二人でこんな部屋にいるの? 私、えっと、昨日の夜は確か夜勤で……、それから家に帰って。……特に合コンとかお見合いパーティーとかってないわよね……。だから酔った勢いとか、そんなことは」
厚ぼったい唇で親指の爪を挟んで思案する。
「合コンとかお見合いパーティーとか、行っているんだ?」
「なっ! イイでしょ? そりゃ行くわよ! 職場だけじゃ出会いなんて足りないし……ってなんで見ず知らずの貴方にそんなこと言わないといけないのよ」
顔を赤らめながらも女は男のことを睨みつける。
「いや、勝手に言ってんじゃん……」
「ウッ……。そういう貴方はどうなのよ?」
「俺は既婚で子供も二人いるよ?」
左手薬指をかざすと、女はウグッと何故か相貌に敗北感を滲ませた。
男はあらためて部屋を見回すとディスプレイの上に掛かる横長の額縁を発見した。
「おい……、あれ、読めるか?」
男の指差す先を、女は追った。
「なに……あれ?」
そこには毛筆で大きくこう書かれてた。
【◯◯◯◯しないと出られない部屋】
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