「◯◯◯◯しないと出られない部屋」に閉じ込められた男女二人が『仕事を選んだ理由』を語り合う話。

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『名前も仕事も正しい。でも仕事を選んだ動機が違うピョーン。君ももう一回嘘ついたら二人共、出られないから、よろしくピョーン!』  イケボがまたピョンピョン言う。 「あれ? 教授は本当だったんだ!? びっくり」  まんまと役職詐欺されたと思っていた玲奈は逆に驚く。 「あ、そこは本当。まぁ、ありがたいことに、教授にしてもらっているよ。ランキングは高くない大学なんだけどね」 「でも、動機? 世の中のためとか、研究が好きとか、教授って職業になる先生には普通のことだと思ったんだけど、どこが嘘なの?」  玲奈は首を傾げる。とてもオーソドックスだと思っていただけに、どこが嘘なのか予想できなかった。 「……これ本当のこと言わなくちゃいけないやつなんだよな?」 「みたいですね」  行成は溜め息を吐く。 「全然くだらない理由なんだけどさ。うちの分野では大学院修士課程を卒業してみんな就職するもんなんだ。それで博士課程に進むとほぼ大学で研究者になったりするの。だから教授になるというより、博士課程進学が分かれ道? あとは競争と運だけ」 「じゃあ仕事を選んだ理由は博士課程に進んだ理由とイコールってこと?」  玲奈の質問に行成は一つ頷いた。 「博士課程に進んだのはさ……就職したくなかったんだ」 「はぁ?」 「なんだか就職活動していて虚しくなったんだよね〜。圧迫面接とか? で、あと、当時の大学の事務室にめっちゃ好みのお姉さんがいてさ。もう少し大学に残りたくなったんだよね〜。まぁ、そのお姉さんとは付き合えなかったけど」 「なんじゃその理由? そんなんで教授とかなれるもんなの?」 「あ、……そこは運とか色々あるし。あと、俺、やらないといけない仕事はバッチリやるタイプの人間なんで、それなりに仕事は仕事で評価されたりして」  きまり悪そうに頭を掻く行成に、玲奈は一つため息をついた。 「でも、なんかわかるわー」 「え? わかんの?」 「うん。私もそうだけど仕事を選ぶ理由なんて、結構そんなもんよねー。泥臭いっていうか、しょーもないっていうか」 「あー、かもなー」  二人はウンウンと頷いてから、顔を見合わせた。なんだか笑えてきた。
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