幸せドアノッカー

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『コンコン』 緑さんの部屋のドアがノックされた。 「――紅子(べにこ)?」 「うん。もうそろそろ終わった?」 その言葉に素っ裸で抱き合っている自分たちの姿に途端に恥ずかしくなる。 「身支度整えたらリビングに来て」 「わかった」 僕たちは急いでシャワーを浴び身支度と整えてリビングに向かった。 「どうぞ」 紅子さん?は僕と緑さんにコーヒーを出してくれた。 「無事番になれたみたいだね。緑、よかったね」 「うん。紅子には長い事心配かけたね」 僕は二人のやり取りの意味がわからず、二人を交互に見た。 「あ、紅子は僕の妹なんだよ。僕は28歳になるまで発情期も来ずにフェロモンも出なかったんだ」 「え?」 「穏くんの言葉を借りれば、僕は欠陥Ωなんだよ」 「そんな…っ緑さんは欠陥なんかじゃっ」 「ふふ。大丈夫。僕も昔は悩んだこともあったけど、ある日紅子が僕の部屋に幸せを全部詰めて幸せな時間を過ごさせてくれてね。発情期なんかなくってもフェロモンなんか出なくっても僕は僕だし、もうどうでもいいやって思うようになったんだよ。それであの店を開いたんだ。僕の幸せがいっぱい詰まったお店。何かに悩んだ人も僕のお店に来て少しでも幸せな時間が過ごせたらいいなぁって。でも、いくらフェロモンが出ないからって僕はΩだから、悪いαに危険な目にあわされるかもしれないからって紅子が心配して猫たちを僕のそばに置いてくれたんだ。あの子たちは黒豆をリーダーとしてお客さんを見張ってくれてるんだよ。そして僕の身に危険がせまったら紅子を呼びに行ってくれる。なんかすごいよね」 「はい…」 思った以上にすごすぎる黒豆たち。 お客の膝の上に必ず誰かが行くのは緑さんを守っていたからなのか。 猫はのんきでいいなぁなんて思ってごめん。 そして、僕の緑さんを守ってくれてありがとう。 「でね、あの日キミに出会った。あの時から僕は少しずつフェロモンが出だして」 「じゃああの時嗅いだ優しい匂いは緑さんのフェロモン…?」 「だと思う。お店の花って偽物だから匂いはしないんだよ。喫茶店であまり他の匂いがするのもね。キミが勘違いしてたみたいだったから訂正はしなかったんだけど。それで初めての発情期が来て…」 「そう、それで私があんたのとこに様子見にいったってわけ。まぁ私としては大事な緑を任せられるか最終判断をしに行ったんだけどね」 なるほど、と全てが腑に落ちた。 その後緑さんと二人そろってうちの両親に挨拶に行った。 気を利かせた紅子さんがそれとなく言っておいてくれたそうで、両親は驚く事なく温かく受け入れてくれた。 両親と笑い合う緑さんの幸せそうな笑顔に僕も幸せになる。 改めて僕たちは『運命』だったんだと思った。 迷い込んでしまった道。 恐るおそる手を伸ばしたドアノッカー。 初めて香る(感じる)運命のフェロモン。 欠陥だと思っていたお互いが出会って、ぴたりとはまるジグソーパズルのピースのような。 これって運命以外にありえないよね。 ***** 僕の幸せも『Cafe 幸せな時間』に加えて、Cafeを訪れる人たちにも幸せな時間が訪れるように、二人でもっともっと幸せになろう。 黒豆は僕が店に来ても膝に乗らなくなった。 時々お愛想で身体を摺り寄せ「な~ぁ」と鳴くだけ。 黒豆たちにも僕は認められたって事なのかな? だったら嬉しいな。 そして今日も誰かが鳴らす幸せの音。『コンコン、コンコン』 -終-
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