99人が本棚に入れています
本棚に追加
その日もいつものように学校帰りに緑さんに会いに行った。
中に入るといつもと違って空気がぴりぴりとしていて、焦燥感にかられ店内を見回し緑さんを探した。
緑さんは店の端の方でαらしい男に手首を掴まれていた。
猫たちは二人を取り囲み威嚇をしている。
「緑さんっ!」
僕は何も考えられなくなって勝手に体が動いていた。男に夢中で掴みかかる。
「緑さんをはなせっ」
「ガキは引っ込んでろっ!」
男は僕を難なく殴り飛ばすと、緑さんを襲おうと緑さんを掴んだ手を強引に引っ張った。
「穏くんっ」
自分が大変な状況だというのに緑さんは僕の事を心配して僕の名前を叫ぶ。
「これから俺たちはお楽しみなんだ。ガキは指でも咥えて見てな」
殴られた頬、ぶつけた頭、ぐわんぐわんと世界が揺れて見える。
だけど、緑さんの涙に滲む瞳だけははっきりと見えた。
「穏くんっ大丈夫?!穏くんっ僕はいいから、逃げてっ」
そんなの…そんなわけいくかっ!
怖い。僕は王子様や勇者になったわけじゃない。
だけど、だけどさ、好きな子くらい守りたいじゃないか。
僕は口の端から滲む血を袖口でぐいっと拭くと男に飛び掛かった。
僕はどうなってもいいんだ。
だから、だからさ、
「緑さん逃げてっ!」
男にしがみついて離さない。
緑さんは僕が守るんだ。
―――――僕の…僕のお姫様。
「このっガキっ!!!」
αの威圧に足がすくみそうになる。
だけど、僕だって…僕だって……!
殴られても蹴られても僕は男を離さなかった。
「―――!?」
「はいはーい。そこまでにしてね。お前、うちの緑に手出して死ぬ覚悟あるんでしょうね…っ」
薄れゆく意識の中ちらりと見えた一目で上位αと分かる女性の姿。
そして、『うちの緑』という言葉。
最初のコメントを投稿しよう!