幸せドアノッカー

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僕は目が覚めてすぐに緑さんの運転する車で病院に連れて行かれた。 検査で異常がない事が分かり緑さんはほっとしているように見えた。 心配かけちゃったな。 念のため今日一日入院する事になり、両親に連絡を入れるとすぐに両親とも来てくれた。 こんな僕の事を大切にしてくれる両親には感謝しかない。 「穏っ大丈夫なのっ?どうして、こんな……」 僕の身体のあちこちに巻かれた包帯を見て、母さんは青ざめて涙を浮かべている。 「父さん、母さん、僕は大丈夫だよ。検査も異常なかったし、明日には帰れるよ。だからあまり心配しないで?」 「あの…すみません。僕のせいなんですっ。大切なご子息にこんな…っ本当に申し訳ございませんっ」 震える声で必死に謝る緑さん。 「緑さんが悪いわけじゃっ」 必死に言い募ろうとする僕を父さんが手で制した。 「連絡をくれたのはキミだね?どういう事なのかきちんと説明してくれるかな?」 普段の穏やかな父さんと違って声が幾分か硬く感じた。 母さんを落ち着かせようと肩を抱いて、事態を把握しようとしている。 群れのリーダーとして当然の事だった。 だけど、緑さんをそんな目で見ないで…っ。 緑さんは悪くないんだっ。 「はい…」 説明される緑さんの言葉に父さんは少し驚いた顔をして、母さんは震えて父さんの胸に顔をうずめていた。 「わかった。緑さん、あなたは何も気にする事はありませんよ。あなたが無事で本当によかった。私は息子の穏の勇気が誇らしい。だから、よかったらこれからも今まで通り穏と接してやってくれませんか?」 普段の調子に戻り穏やかな顔で語る父さんの言葉に緑さんも少しだけほっとしたような顔をしていて、僕はこういう所もダメだな、と思った。 緑さんが自分を責めていた事を知っていたのに、緑さんがもう誰かの番だって自分のお姫様じゃなかったって、その事実が心を占めてしまって緑さんを気遣う事ができなかった。 ―――――僕はやっぱり…ダメなαだ。
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