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ただただ僕は緑さんを求めた。
緑さんの身体はどこを舐めても甘くて、もっともっとと求めてしまう。
そして、緑さんの啼く声は僕の理性を簡単に吹き飛ばしてしまった。
もう緑さん以外何も考えられない。
それからの事はあまり覚えていない。
ただ、緑さんの細い頂に噛みつき、牙がその柔らかい肌を食い込んでいった感触、その後の多幸感だけはしっかりと覚えていた。
***
髪を撫でられる感触に意識が少しずつ浮上する。
「ごめん、起こしちゃった…?」
僕のすぐそばで幸せそうに微笑む緑さん。
一瞬何が起こったのか分からなくなり慌てるが、すぐに思い出し顔が真っ赤になった。
「ふふ。かわいいなぁ…穏くんは」
緑さんは笑いながらちゅっと音を立てて僕の頭にキスをした。
「あの…僕で本当にいいんでしょうか?」
「――え?僕とこうなった事、穏くんは後悔してるの?」
今にも泣きそうな顔をする緑さん。
「ち、違います!そうじゃなくて、僕はこんなに平凡だし、欠陥αだし、素敵な緑さんに僕なんかがいいのかなって…」
「欠陥?」
「はい。僕はΩのフェロモンが分かりません」
「え、でも僕のフェロモン…」
「はい。だから不思議なんです。以前クラスで目の前で発情期に入った子がいたんですが、僕だけ分かりませんでした」
「―――その子は…?」
悲劇を想像したのだろう緑さんの顔が悲痛に歪む。
「その子は僕が先生を呼びに行って大丈夫でした。だけど、ショックを受けてΩの学校に転校しちゃいましたけど。僕がフェロモンをちゃんと感じる事ができたら、もっと早くその子があんな怖い思いをする前になんとかできたんじゃないかって…。こないだの緑さんの件も、僕は弱くて緑さんを守れなかった……。あの女の人が来てくれなかったらと思うとぞっとします…」
俯く僕を強く抱きしめる緑さん。
「穏くん、キミは弱くなんかないし欠陥αでもないよ。キミはちゃんと強いよ。僕は本当の意味での強さって心が強い人だと思う。そのΩの子を助けたのはキミだと思うし、僕の事もキミは助けてくれたよ?それにね、こう言ってはなんだけど…穏くんが僕以外のフェロモンを感じないって……僕は嬉しいんだ。だってキミはこれまでもこれからもずっと僕だけのαって事でしょう?」
そう言って微笑む緑さんがとても幸せそうで、僕の胸に温かい物が広がった。
そんな風に考えた事はなかった。
二次性判定のαの文字とβとしか思えない自分。
理想と現実との間で、僕は自分の事を欠陥αと思う事で逃げていたのかもしれない。
身体が小さくて、能力が平凡だという事を言い訳にして僕は何も努力してこなかった。
最初から王子様や勇者なんていないのに。
最初はみんなレベル1。努力が人を育てるんだ。
僕はこれから緑さんを守るために、欠陥αだなんて言い訳なんかせずに努力を続けよう。
その結果たとえ王子様にも勇者にもなれなくても、僕は僕として緑さんを愛し、守る。
これからの一生をかけて、僕の番を守ると誓うよ。
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