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しかし【口癖】というのは、ある意味【そいつ自身を象徴している】とも言えるのではないか。他人の本質を視覚的に見れるということだ。これはなかなかに面白いんじゃあないか?
そう思ったのも束の間。俺は他のいろんな奴を試してみたが、『面倒臭い』、『だるい』といった、くだらない芋しか取れなかった。大学生の口癖なんてそんなものなのだろうか。
中には『ありがとう』と書かれた芋が取れた奴もいた。何とも健気なやつ、と最初は思ったが、どうせ偽善を言葉にしていているうちに口癖になっただけだろう。
あくまでこれは本心ではなく、普段口にしている言葉の芋なんだからな。
つまらない言葉の芋しか取れないので、次は同じ講義の隣に座っている、ガリ勉くんの蔓を引いてみた。さぞかし知的な言葉が取れるだろう。
『まゆたん、まじ尊い』
オタクかよ。つまんねぇ。期待外れもいいところだ。
いや、陰キャを選んだのがまずかったか。陽キャなら逆に……いや、そんな奴らから大層な言葉が取れるとは到底思えない。もっと面白い言葉が取れる奴はいないものか。
次に俺は、著書もいくつか出している有名な教授の蔓を引いてみることにした。
『今日の食堂のメニューは何だろう?』
なんだこりゃあ。頭がいい奴ほど普段はこんなことしか口にしていないのか?
大した地位にいるようなやつでも、普段口にしているのは大した事ではないのか。
摩訶不思議な現象に、さぞかし楽しめると思ったが、引く芋、引く芋全てくだらない言葉しか取れない。まったくもって、つまらない奴らばかりだ。
所詮人間なんてこんなものか。
そう思いながら自宅に帰った。洗面台に向かうと、そこには口から蔓を生やした、鏡に映る自分の姿があった。自分にも芋が出来ていたのか。
普段から常に思考を重ね、それを口にしている俺だ。さぞかし知的かつ聡明な言葉が取れるに違いない。
そう思って自分の蔓を引いた。
ズル、ズル……。
ボコッと芋が出てきた。
しかし、
ズルズル……ボコ。
ズルズル……ボコ。
いくつもの芋が蔓状に連なっている。沢山の芋がオレの口から出てくる。
ズルズル、ボコ、ズルズル、ボコ。
ズルズル、ボコ、ズルズル、ボコ。
ズルズル、ボコ、ズルズル、ボコ。
ズルズル……。
ボコ、ボコ、ボコ……。
おいおい、どれだけ取れるんだ。
……そうか、普段から思考を重ねた言葉を使っているから、それだけ言葉の量が多いのか!
とにかく、ひたすら芋を取り続ける。部屋が芋で埋め尽くされたくらいに、ようやく最後の芋が取れた。
俺は期待しながら芋を割った。
…………。
普段、自分が何を言葉として口に出しているか、【客観的に見る】って、必要なことなんだな……。
芋づる式に掘り起こされた俺の芋の中身は、実に『つまらない』言葉の羅列だった。
おしまい。
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