還る場所

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 人間が焼かれて骨になる時代が懐かしい。多くがそう思うようになってきたころ、ぼくの会社はもとの海洋事業から、宇宙開発の事業にシフトした。  ぼくの会社はもともと小さな葬儀会社だった。地元密着型で、ぼくのおじいさんが始めた事業。それを父が引き継いだ。父は事業をさらに拡大するため、あらゆる手を打った。そんなときに、あのパンデミックが起こった。未知のウイルスの蔓延。それは葬儀業界に大きな波紋を起こした。  何せ人間が骨にならずにゼリーになるようになったのだ。世界中が大混乱に陥った。  父はそれを利用した。  近年流行になりつつあった「海洋散骨」。そのサービスに全面的にシフトしたのだ。  ゼリーのような見た目はくらげに似ていて、「人類は海に還る」それをコンセプトに、ほかの事業はすべて捨て、海洋プロジェクトのみに焦点を当てた。  それが大成功したのだ。  父の会社、それはぼくの会社でもあるが、は、急成長した。多くのテレビ番組や雑誌で父の話題が取り上げられた。ゼリーを、人間を海に捨てることで。 「人類は土ではなく、海に還る時代が来たのです」  父はそう高らかに宣言した。  それを懐疑的な目で見ている学者もいた。本当に、人類が海に還ることができるのか。あのゼリーがもう一度、地球の1部に戻ることができるのか。その研究はまだなされていなかった。けれど父にはそんなこと、どうでもよかった。事業が成功している。それだけが事実だった。
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