5 深入りしたい

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「変わっていないなら、覚えています。合格の連絡くらいしてもいいかなって、ずっと番号書いたメモを睨んで悩んでいたから」  続けて数字をそらで読み上げる。間違いなく千花の番号だった。  柿崎は申し訳なさそうに微笑んだまま、一息に続けた。 「ストーカーになるつもりはありません。先生が無事に部屋に入ったら、帰りますから。すみません、心配するふりして家を割り出そうとしたみたいで、怖がらせてしまった気がします。本当に、悪いことはしません」  そうだ。 (私たちはここでさよならと言って別れるのが正しい)  頭ではわかっていた。わかっているのに、なかなかその一言が出ない。  もっと一緒にいたい。  今日だけでいい。多くを望まない。  ……それは「一回だけ」と言って迫ってきた三木沢とどう違うんだろう。  彼氏でもないのに、寄りかかるのがあまりにも心地よくて、側にいてほしいと願ってしまうなんて。  沈黙は不自然な長さになって、柿崎は小さくふきだした。 「先生、悩んでますよね。当ててあげます。引き留めたいんじゃないかな、俺のこと」  見透かされているし。  いいえ、ではない。  だけど、「うん」と頷くこともできない。  情けないほどに固まってしまった千花に、柿崎は穏やかに言った。
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