塵芥にモザイク

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(私の仕事は社会の役に立っているのだろうか。さらに言えば私が働いた功績は将来なにかの役に立つのだろうか)  OA機器に限らず、営業職というものは自分で何かをするわけではない。人が作ったものを売り、壊れたら人に頼んで直してもらう。「ありがとう」も「申し訳ございません」も私に向けた言葉じゃない。私はただの仲介役で、何もしていないのだ。  看護師である彼女に嫉妬していたことも、私が悩みを打ち明けられない理由だった。彼女は外科外来の看護師で、直接患者と関わっている。そこにある「ありがとう」は紛れもなく彼女に向けられたものだ。  私はそんな仕事をしている彼女のことを心底羨ましく思っていた。私は何も生み出さないし、誰も救えない。  ICTとかAIとか、将来の通信インフラの整備に関われる気がして今の会社に入ったが、やっていることは既存機器の押し売り。相手先にすでに環境が整っているにも関わらず、契約をとってこいという上司までいる。  入社して3年目、私は赤や黄色に染まった街道をドライブしながら、この仕事を始めた理由を見失いかけていた。 ☆☆☆  運転中、彼女がストリーミング音楽サービスでノリのいいロックバンドの曲を流していたが、それすらも私は嫌だった。彼らの曲は未来永劫、「作品」として愛されるのだろう。対して私が人生を削って「売った」職場のICT環境は、誰が覚えているというのか。環境が整えば私は用済み。あとはサポートデスクに引き継がれる。どんな売れないバンドより、私は惨めな気持ちだった。
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