塵芥にモザイク

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 法人向けICT機器の営業をしていたころ、彼女と二人で山奥の寺院に紅葉を観に出かけたことがあった。仕事に行き詰っていた私は、少し強引に彼女を誘って目的地へと車を走らせた。空模様は灰色で、両脇の秋景色が際立っていた。 「紅葉を見に行くだけなら、こんな遠くまで来なくてもよかったんじゃない?」  不満そうな声で彼女は言った。確かにそうかもしれない。 「でも近場はみんな人であふれているし、少し走りたいんだ」  私は運転に集中して彼女に返答した。もう付き合って2年も経っているので、彼女は私の様子を察したようだった。 「何か、悩みごとでもあるの?」 「うん。でも今日一日遊んだらきっと無くなるさ」  私は彼女に仕事の悩みを打ち明けるべきか悩んでいた。私の仕事はOA機器の営業で、最近では流行りに手を出してICTの導入支援もはじめていた。人に好かれる性格のため営業成績もよく、取引先との関係も良好である。元々、機械が好きだったのと人と話すのが得意だったので、今の会社は天職のように思えた。  そんな私を彼女含めた第三者から見れば、仕事の悩みなど無縁の存在だと羨ましがるはずだ。しかし私は悩んでいた。
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