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◇
それから半年後、ボクらの日常は一変した。
それこそ文字通り、一変、だ。突然地球上に降り注いだ、謎の光。それを浴びた人間の九割が変死した。頭や腕などが破裂するほど肥大化したものもあれば、ミイラのように水分が一気になくなったもの、形すらのこさず爆弾のように破裂したものなどその変死は様々だった。その数、約三十億人。だが、正確な数はわからない。
そんな中、光を浴びても何ともなかった者もいる。
いや、何ともなかったわけじゃない。
マンガや映画などのフィクションの世界でよくみた、特殊能力を持つ人間に進化したのだ。
そんな馬鹿な話、あるわけない――一年前の自分に語れば、そう笑って言い返されるだろう。
でも、これは現実だ。世界中の人間が、感染症対策のために一年中マスクをしだした、と言うのと同じように。
ボクらの日常は、簡単に非日常に変わる。
こういう非常時こそ、国政を担う者たちが先導者として見本となる行動をとり、明確な指示を出すべきなのだが、責任を持ちたくない心理が働いているのか、誰もが曖昧に言葉を濁し、何も物事が進まない。
そうしているうちに、とある組織が生まれた。
一言で例えるならテロ組織。だが、従来のテロ組織を想像してはいけない。謎の光が地球に降り注いだあの日、人類は二極化した。
特殊能力を持つ人間とそうでない人間。テロ組織は、そんな特殊能力を持つ人間たちで構成された新人類によるテロ集団だ。
彼らは、ノアの箱舟計画という目的を持つ。その名前の通り、能力のない人間の一掃を目的としている。人類は進化の時を迎えたというのは、彼らの主張だ。
人類の半数が一瞬のうちに消えたのだ。消えた民族や文化、知識などは計り知れない。とある国では国の中枢の人間が消えた。法と秩序で守られていた生活は、暴力と嘘に塗り替えられ、他人を思いやる余裕もなくなった。
またある国では、連綿と受け継がれていた技術が若手に継承途中で途絶え、国の財源を失いかねない状況に立たされている。
こんな混乱を治めるには、一度すべてを洗い流すべきだ――その考えに賛同する、特殊能力を持たない旧人類も多い。
正直、その考え方がまったく理解できないわけではない。
ただ、ボクは納得できないのだ。
まだ、やり直せる――そう考えるのはボクだけではなかった。
幸か不幸か、人類にとって大きな分岐点といえるあの日、ボクはあの光を浴びそして生き残った。志を同じにする者たちの中には、特殊能力を身につけた者も多くいる。
すると、自然とボクらは互いの正義を主張し、対立した。
まるで、ヒーローショーのヒーローとヴィランのように。でも、現実はフィクションのように明確に表裏が分かれているわけではない。
初めの頃は、話し合いの場を設け互いに納得のいく結果を出そうとした。でも、元々それぞれの持つ理想が相容れないものだ。話し合いの場で何か得られた試しはなく、そのうち言い争いばかりになり開かれなくなった。
こうなったら、徹底的に潰し合うしかない――そういう雰囲気が強くなりつつある。でも、それは避けたい。
だが、仲間内でも次第にもめるようになってきた。このままでは内部分裂をきっかけに、双方が血で血を洗い流す未来がやってきてもおかしくない。
あの日、空から降り注いだ光は今でも鮮明に思い出させる。
幾重にも重なった雲さえ切り裂くような光だった。真夏の太陽とは違う、すべてを無に帰すような、強く逆らえない光。
ボクはそのとき初めて光が怖いと思った。影さえ焼き殺しそうなまばゆさだ。実際、一瞬にして目の前が真っ白になった。どのくらいの時間浴びていたのかは知らない。ほんの一瞬だったかもしれないし、数分だったかもしれない。
我に返った瞬間、むせかえるほどの鉄の匂いと赤一色の町並みに言葉を失った。
夢ではなく現実だと理解するまでかなり時間を要した。
ヒーローショーでヒーローをしていたあの頃が、遠い昔のようだ。
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