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あとは、溶き卵を入れて混ぜ、ふるった小麦粉を入れるだけだった。
混ぜたものを、型に流し込む。
「オイルの方は、すぐに混ざるから。じゃあスタート」
砂糖に卵を入れて混ぜる。とろりとしてくる。これにオイルを入れて混ぜる。
「こっちは、ちゃんと乳化してるかがポイント。分離してなくて、とろりと乳液みたいになるように大きく混ぜて」
「ああ、なった、なった」
「あとは、小麦粉だけだから」
「あら、こっちは早いのね」
こちらも型に入れる。天板に二つの型を並べて、オーブンに入れた。焼き上がる間に、器具の片付けをする。
コーヒーを用意する。
「すみれさん、就職活動の方は?」
「ああ、もう惨敗よ」
就活の方は、はかばかしくなかった。
書類選考で落ちて、履歴書が返される。
雇用保険があるからいいと思いつつ、気持ちがへこむ。年齢のことは窓口で確認しているので、それが原因ではない。そうだとすると、私の経歴や資質で選ばれないのかと、がっかりする。
「そんなの、履歴書だけで人間の本質なんて見極められないでしょ」
「すみれさんのやりたいことって、何?」
やりたいこと……何だろう。
私が口ごもってしまったので、由美子さんが話題をふる。
「こうやって、教えてもらうとわかるのよね。やりたくて興味があったり、やっても上手くいかない人っていると思うのよ」
「え? こういう教室ってこと?」
「そうそう。すみれさんて、ちゃんとポイント押さえてて、わかりやすいわあ」
そうなんだろうか。やっぱり好きなことだからだ。
「すみれさんて、お菓子作りは本とか見て、自分で?」
「ううん。私、実は製菓の専門学校出てるの」
「えー。じゃあ資格持ってるんじゃないの。どうしてそっち方面に進まなかったの?」
私は昔を思い出す。
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