【Temptation〜誘惑〜】

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あの時のお兄ちゃんなら逢いたい。 ずっと私を励ましたから。 あのお兄ちゃんがいたから、私は。 席に戻るはずが無意識に教室を出る。 お兄ちゃん、ずっと逢いたかったんだよ。 どうして、あの時からいなくなったの。 聞きたい事が沢山ある。 とにかく逢いたい。 お兄ちゃん。 逢いたい気持ちが鼓動を早くさせる。 ドキドキ、ドキドキ、ドキドキ。 やけに早い鼓動に少しだけ違和感を感じた。 これが恋ってものなのかな? 夏穂ちゃんが言っていた。 私の王子様だもんね。 恋をしているとは思っていなかった。 優しくて、いつも側にいて。 優しい笑顔をいつもしていた。 だから、お兄ちゃんのおかげで、私はあの地域の独特性に耐えられた。 でも、急にいなくなってしまって。 心の中に、ポッカリ穴が開いたのも事実。 また逢えるなんて思ってもいなかった。 逢いたい気持ちが強すぎて、歩く足が早まる。 何故か心臓?鼓動は早いけど。 これは嬉しさからよね。 久しぶりに会ったら何を話そう。 なんて一人で妄想する。 【…………………結界術の時間(トキ)が、思った以上に早い。なんのつもり?あの男は。】 歩いていく私の後ろ姿を見ていたのは、櫻井瑠花さんが真剣な表情で小さく呟いている。 その事にも気づかず、中庭へ歩いていく。 中庭へ着き。 一旦大きく深呼吸をする。 ドキドキ、ドキドキ、ドキドキ。 これからお兄ちゃんに逢えるんだ。 お兄ちゃんがいる場所へ歩いていこうとした時、広瀬先生が険しい顔で立っている事に気づいた。 「………………水無月さん。何故来たんですか。」 困ったような表情をする、広瀬先生は初めて見た。 「え?あれ?私、どうして、此処へ?あ、そういえば、広瀬先生のお友達さんは?」 隣にいたはずの男性の姿は、既にいなくなっていた。
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