【Temptation〜誘惑〜】

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「水無月さん、何をしているの?」 可愛い声に我に変わる。 鏡越しに見えるのは転入生の櫻井さん。 私の間抜けな姿に、呆気に取られているようにも見えた。 「あ!アハッ。お昼ごはん食べ忘れたからどうしようかなって考えていて。」 「……………鏡を見ながら?」 怪訝そうに見る櫻井さんに顔が引き攣る。 「え?うん。変わっているでしょう。」 えへっと笑ってみる。 ええい、いっそう頭がオカシイ人になっちゃえ。 だって、本当の事は言えないもの。 もしかしたら、私はお兄ちゃんの事が好きだったかもしれないもの。 だから、こんなに落ち込んでるんだ、きっと。 初めて気づいてしまった。 櫻井さんに気づかれないように。 「そういえば、五時間目は体育なの。更衣室案内するね。」 ニコッと笑う。 「………ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えようかな。」 振り向いて笑う私の笑顔に、一瞬だけ真顔をする櫻井さん。 次の瞬間、ふわりと笑顔に変わった。 そういえば、上条さん達と一緒じゃないのかな。 確か、お昼は上条さん達と屋上に行ったって聞いたんだけど。 「飲み物を買いに行くからって言ったの。」 私の疑問がわかったのか、櫻井さんはニコリと笑った。 あとで教室で待ち合わせをする所だったんだけどね? 「そうなの?じゃあ、早く行かなきゃ。」 「水無月さんが一緒なら別にいいんじゃないかな。」 悪戯っぽく笑う桜井さん。 「え?」 何故か?とキョトンとする私。 「お腹空いているでしょ?ちょっとだけ私と付き合って?もし遅くなったら理由を考えるわ。」 「え。いやいやいや。お腹空いているのは慣れているから。それに櫻井さんは転入生だし、遅刻したらまずいわよ?」 慌てて歩こうとする私の手を櫻井さんが掴んだ。 「水無月さんが倒れるよりマシだわ。遅刻するよりね?」 ぺろっと、櫻井さんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。 【あの男が、その手で来るなら私も考えがあります。邪魔しないでくださいね。】 チラッと外を見てふっと微笑んだ。
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