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「私は会いたかった。ずっと。」
足を止めて振り向いた櫻井さんに何故かゾクリと寒気がする。
「ずっと、ずっと。母親が泣いていたのを見た時から。小さい頃にね。」
悲しそうな表情に胸が締め付けられる。
「でも、今は、もういいの。母親も、やっと私を見てくれるようになった。父親だけは見てくれないけどね。」
「櫻井さん。」
言葉が出ない私に、ふっと小さく笑ったのは気が付かなかった。
「私の父親は男の子が欲しかったんですって。ずっと、ずっとね。姉が産まれた時かららしいんだけど。こればっかりは無理よね。だから、私は両親とは別に今は住んでいるの。保護者はちゃんといるわ。別にね?」
……………あんな男いらないけど。
なんて言った言葉は聞こえなかった。
「……………………………。」
暗い話になってしまい、更になんて言ったらいいのかわからない。
なんて言っていいのかわからない。
俯いてしまった私を見て、櫻井さんは更に深い笑みを浮かべた。
I need you(あなたが必要なの)
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「ん?何か言った?櫻井さん。」
「ううん。行きましょう。ごめんなさい、暗い話をしてしまって。仲良くなりたいから話したの。上條さんは知らないわよ。」
ニコッと微笑んだ櫻井さんに一瞬だけ違和感を持った。
「………………うん。」
なんだろう、この得体の知れない不安感は。
拭いきれない不安感を抱えながら運動場へ歩いていった。
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