しっかり捕まってろ

1/6
前へ
/6ページ
次へ

しっかり捕まってろ

 徹夜明けの目に朝日が眩しい。小川誠治は思わず目を細めた。手足に力は入らないし、頭はがんがんと鳴っている。今にも倒れこんでしまいそうなぼろぼろの体に反して、心は興奮していた。ようやく捜査に進展があったのだ。彼は警視庁に奉職する刑事。詐欺事件を専門とする部署に配属され、現在は大規模な振り込め詐欺事件を追っている。振り込め詐欺事件は年々組織の細分化が進み、捜査するのが難しくなっている。電話をかける人間や金を受け取りに行く人間、資金を提供する人間などがそれぞれ別の集団に属するため、どこかで足がついても関わった全ての人間を逮捕することはまず不可能だ。微罪で終わってしまう末端の人間だけが切り捨てられ、トカゲの尻尾切りが行われてしまうのだ。そんな中で金を受け取りに行く人間、通称「受け子」の斡旋を行う人物を特定することができたのだ。地元の未成年のネットワークに通じていることが特徴的な「モガミ」と呼ばれる男。彼を挙げることで、他のセクションの人間に迫ることができるかもしれない。この局面で捜査が大きく進展する見通しが出てきた。本腰を入れるべくモガミの逮捕に向けて動きだす直前に、しばしの休息をもらうことができた。休むと言ってもまたすぐに本庁にとんぼ返りだ。シャワーを浴びて仮眠をとることくらいしかできないだろう。息子の顔くらいは見られるだろうか。いつもならそろそろ通勤ラッシュの時間だが、すれ違うサラリーマンの数はまばらだ。日曜だからか街にはのんびりとした雰囲気が漂っている。束の間の平穏を楽しみつつ、誠治は自宅のドアを開けた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加