しっかり捕まってろ

2/6
前へ
/6ページ
次へ
 そろそろ朝七時になるが家の電気は付いていなかった。高校生になる息子の直志はまだ寝ているのだろうか。休みの日だし部活にも入っていないはずだからうるさいことは言うまい。まずは誠治自身が横になりたいし、捜査ばかりで家を空けがちな彼と息子との間に会話は殆どない。直志が小学生の時に妻を亡くしてから二人三脚でやってきたつもりではあるが、いつの頃からか息子の考えていることがわからなくなった。今は家族というよりただの同居人だ。あくびをかみ殺してソファーまでたどり着く。シャワーを浴びる前に一眠りしようか、そんなことを考えていたらダイニングのテーブルからバイブ音がした。直志のスマホだろう。テーブルに置いたまま寝てしまったのだろうか。そのまま体を横たえようとすると二回・三回・四回・五回と音が続いた。うるさいな。朝から何だろう。彼女でもできたのだろうか。寝る気が失せてしまった。立ち上がってコップに水を汲む。テーブルに着きながら、何とはなしに画面を覗き込んだ。 『頼むよ、このままだとモガミさんに殺される』 今来たばかりのメッセージの内容だった。思わず目を疑ったが、考え直す。偶然の一致だろう。きっとそんな名前の怖い先輩がいるに違いない。「死ね」、「殺す」今時の子たちの中では挨拶のように使われる言葉だ。ただ、メッセージの送り主が気にかかる。りょーた。誠治も知っている人物の可能性が高い。中川涼太。直志とは幼稚園から中学校までが一緒の遊び友達だ。「幼馴染」というやつだろう。小学生の時には直志と一緒にキャッチボールの相手をしてやったこともある。しかし、涼太は中学に入った頃から変わってしまった。ベタな言い方をすれば「グレた」のだ。地域の中でも悪評が取りざたされ始め、少年課のお世話になったことも一度や二度ではないという。一度彼との関わりを控えるように直志に話して大喧嘩になったことがある。そのあたりから息子は誠治とまともに口を聞くことがなくなった。結果として直志は非行に走ることもなく、涼太とは違って高校に進学したため胸をなでおろしていたところだった。何をしているのやらわからない非行少年がモガミとコンタクトをとっていたとしたら……。ドアの向こうから足音がした。慌てて体の向きを変える。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加