怜 ち ゃ ん 。

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プツッ、と切れた電話。 俺はスマホをコトン、と テーブルに置いた。 ・・・シャンパングラスに、 夜景が映り込んでて、 一気に現実に引き戻される。 魔法使いみたいに、 メイクが出来て、 優しくて、料理が 上手で、おしゃれで、 完璧な人、 って、椿の目には 映ってるんだね。 うん、そうだろうね。 椿の前では、 椿のために、 そういう自分しか、 見せてないから。 だから―――――・・・・ 「もう、注文の多い 女優だなんて思ってたの? ひどいわ。」 後ろから香る、 甘い香水。 柔らかなカラダ、 色香のある、声。 本城 斐祢が、 甘えるように、 俺を後ろから抱きしてきた。 「斐祢さん、聞いてたの? ん、困ったなぁ。」 「全然困ってなさそうね、」 これも、俺。 女優とホテルで 『親しい友人です』を しちゃってるのも、 紛れもなく俺。 椿は、こんな俺を 知ったらどう思うかな。 「例の年下の 幼馴染みちゃん?」 斐祢さんは、 俺よりも年上の31歳。 愛らしい美貌で10代の 時には芸能界入りをして、 映画やドラマに、 引っ張りだこの女優。 昨年は大河ドラマでも 主演を務めてた。 その時は全然知り合いじゃ なかったけどね。 今じゃ大河女優なんて 呼ばれて、着実に大女優の 階段を上っていってる。 「そ。可愛いんだよ。」 俺がシャンパンに 口をつけると、 斐祢さんは、するりと 俺のガウンの合わせに 手を差し入れた。 「幼馴染みちゃんは、 怜が女優とこんなこと してるって知ってる?」 「まさか。 あの子は、こんなこと 知らなくてもいいんだよ。」 「あら、隠してるの?」 「んー、そう、だね。」 椿は、こういうこととは、 きっと無縁。 椿にとっては、 俺は“良いお兄ちゃん” だから、 “こんな俺”は、 見せなくていい。 ごめんね、椿、 悪の組織、とまでは いかないけど、 椿の知らないところでは、 こんなことしちゃってる。 「それに、聞き捨て ならないわね、 “暇”だなんて。 あたしといるのは暇?」 「どうかなぁ。」 「もう、怜っ、」 くちゅ、と甘めなキス。 シャンパンの味が、少し。 斐祢さんの頬が、 少し紅潮した。 「斐祢さん、 ベッドいく?」
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