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「私、帰るわ。じゃー、おつかれ」
仕事が片付き、いつも通り適当に声をかける。
「八重田のこと、別に好きとかじゃねぇから。あの男が許せねぇだけ。みんなの前で八重田の話して、あんなこと言いやがって……今井さんの気持ち考えると、やるせねぇんだよ」
前を向いたまま、ため息まじりにそう言った。
「わかってるよ。別に……なんとも思ってないし。アンタも早く帰んなよ? ここのところ、また帰るの遅いみたいだしさ。じゃーね」
「わかったよ……おつかれ」
(わざわざあんなこと言わなくてもいいのに)
でも、なんとなく少しだけうれしい気もする。私のことを気にかけてくれたような言葉が。
6月下旬の勉強会の日。何事もなかったかのように今井さんが来た。あの埼玉の子も一緒に。
「……今井くん、すごいね。さすが」
今井さんとあの子が勉強会に行くと、飛鳥さんがボソッとそんなことを言ってあの日の話になった。
「……八重田さんいるし、やめましょうよ。その話。きっと今井さんも話してないんですから。……まぁ、話せるようなことじゃないですけどね。酷すぎて」
小久保がまた傷つくような気がして止めた。アイツのあんな顔、もう見たくない。
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