ユニカの理由

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ユニカの理由

「ねぇ、ユニカは何でこんな仕事してるの?」 「…はい?」 言葉だけ聞いたら喧嘩を売っているようなセリフだが、私は生意気なカインの表情を見て毒気を抜かれた。私の仕事をバカにして嫌味を言っているつもりは毛頭無いらしく、純粋に疑問だと顔に書いてあったのだ。年下で、生意気。けれど純粋過ぎるカインに、私はいつも甘くなってしまう。溜息を吐いて分別していた魂の入った瓶をテーブルに置くと、彼に向き直った。 「何度も言ったでしょう。あなたのお兄さん、ギルに助けてもらった恩を返す為よ。彼の元で働くのが手っ取り早いからね」 「…兄貴に恩を返す為に死神補佐やるなんて、くだらないよ。さっさと転生したら幸せになれるだろうに」 カインはギルを毛嫌いしている節がある。何が嫌なのか分からないけれど、男兄弟には色々あるのだろうか。私は生前一人っ子だったから、いまいち彼らの事情には首を突っ込む事は出来なかった。吐き捨てるように兄貴、というカインは不貞腐れたような顔でテーブルに座ると、私の頬に手を添えた。 「…あんな奴に、ユニカが尽くす必要ないんだよ。死神補佐なんて、死者を奴隷化してるだけの悪習だ。あなたみたいに綺麗な人がやる仕事じゃない」 「カイン。人間だった時、橋の崩落で事故死した私の魂を回収して、死の認識と覚悟の時間を与えてくれたのがギルなのよ。ギルがいなかったら私、あの場に留まって悪霊になっていたかもしれないの」 私がまた瓶の選別をし始めると、カインは何か言いたそうな顔をして、止めた。小さく舌打ちをするとテーブルから降りて「ユニカは悪霊なんかにならないよ。そんなの兄貴が言ってるだけの戯言さ」そう絞るように呟いて部屋を出て行った。本当の所、彼が何を言い掛けたのか私は知っている。でも、まだこのままでいたい私は知らないフリをし続けている。ギルでもカインでもない、私自身の為に。 “兄貴がユニカを手に入れる為にあの崩落を起こしたのに” きっとカインはこの言葉をずっと呑み込み続けている。言ったら私が傷付くと思って、言えないでいる。たまたまギルの部屋で知ってしまった事実であったけど、不思議と私は驚く事も悲しむ事も無かった。 死神補佐なんて死神の奴隷めいた仕事を始めたのは、確かにギルへの恩返しの気持ちからだった。けれど今、転生を拒否してまでこの仕事を続けているのは… 「カイン、あなたの事が好きだからよ」 私は上機嫌に鼻歌を歌いながら、ギルが帰って来るまでに仕事を終わらせようと手を進める。部屋の外に蹲って赤くなった顔を覆っているだろうカインの気配を感じながら、私は少し笑った。
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