15097人が本棚に入れています
本棚に追加
/307ページ
休日の昼間から律がいるなんて珍しい。いつもは自宅に籠ってゲームでもしているのに。そんなふうに思いながら、リビングに通された。
ブラックコーヒーを目の前に、律はテーブルの上に頬杖をついて片手でスマートフォンを操作していた。額縁があったら絵画のようである。
グレーのVネックのニットが細い首を際立たせている。
片付けられた空間に似合う律が、視線だけを璃空に向けた。
「来るって知らなかった」
「言う必要あった?」
他人から見れば険悪ムードに見えるが、これが彼らの通常である。お互いに似ている部分があるのは承知している。ただ、関係を拗らせるのも単に面倒なだけだった。
「3人で集まるとか何ヵ月ぶり? 半年?」
陽気に蓮が言う。璃空は律の向かい側の席を1つ空け、椅子を引いて腰を掛けた。蓮はそのまま冷蔵庫を空ける。それはただの動作に過ぎず、すぐに扉を閉めてコーヒーカップをコーヒーメーカーに設置してエスプレッソのボタンを押した。
その姿を横目に「蓮が七海と関係をもった辺りからか」と璃空が言った。その瞬間、空気が凍る。普段冷静な律でさえ顔を上げた。
「……は? なに言ってんの?」
血の気が引いた蓮は、振り返ることができずにそう言葉だけ投げ掛けた。泳ぐ視線は目の前のコーヒーメーカーだけを捕らえる。マンションを購入した時、新築祝いで律にせがんだものだ。白が基調でスタイリッシュ。置いてあるだけでもオシャレに見せるが、コーヒーの味もそこそこである。自分用に一杯淹れてから気に入って毎日飲んでいる。客人用も専らこれである。
コーヒー豆の香りが漂う中、「七海から聞いてる」と璃空は言う。
「な、七海から……?」
ゆっくり振り返る蓮。無表情の璃空に苦虫を噛み潰したような表情の律。律に関しては完全に軽蔑している証拠である。
「……七海って璃空の妹の?」
「そう」
「いつから知って……」
「半年前。お前が七海を抱いた翌日に本人からカミングアウトされた」
先ほどの律のように頬杖をついた璃空。抑揚のない声が、憤りを感じさせ蓮は更にたじろぐ。
これはまずい。そう思った蓮は慌てて「ご、ごめん。手を出すつもりはなかったんだけど……なんつーか……」ととりあえずは謝罪した。
璃空は興味なさそうにゆっくりと瞬きをし、「別に。それはいい」と言った。
拍子抜けした蓮は「へ?」と間抜けな声を上げ、律は何かあるなと目を細めた。
「七海も大人だし、俺が口を挟むことじゃないから。だから聞いたところで蓮にも言わなかったし、そのまま放っておいた」
璃空らしい言い分に、はあ……とため息にも似た声が溢れる。じゃ、何なのかと蓮が顔をしかめると「それはいいけど、叶衣が気付いた」と続けた。
最初のコメントを投稿しよう!