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律は「あーあ」といった顔で顔の前で手を組み、鼻下と唇を押し当てた。蓮は目をまん丸く見開いたままその場で硬直していた。
「……なんで」
「昨日、連れ込んだろ。マンションの前で見られてる」
「……嘘だろ?」
「万事休す」
真っ青な顔の蓮に、とどめを刺す律の言葉。状況を一気に把握した律は、平然とした顔でコーヒーを一口飲んだ。
「電話がきた」
「なんで璃空のところに!?」
「さあ。叶衣もなんで璃空にかけたんだろって言ってた」
「マジかよ……」
蓮は頭を抱えてその場にしゃがみ込む。大理石風のカウンターキッチンから姿を消した蓮に「俺のコーヒーまだ?」と呑気な璃空の声が響いた。
「コーヒーどころじゃねぇだろ! 俺、来月プロポーズしようかと思ってたんだぞ!?」
勢いよく立ち上がった蓮は、コーヒーカップを持ってカウンターキッチンの向こう側からドスドスと音が聞こえてきそうなほど大股でやって来て、璃空の目の前にゴンッと大きな音を立ててカップを置いた。
揺らいだコーヒーがぴちゃりと跳ねて、少量テーブルに溢れた。璃空は全く問題なさそうにカップを口元に持っていき、ふうっと息を吹きかけてから口を付けた。
「そもそも浮気したのは蓮じゃないの? プロポーズしてどうするつもり?」
律は横に並ぶ蓮を見上げながらめんどくさそうに息をつく。2年前には律の弟の彼女が元彼の浮気やらストーカー行為やらで揉めていたのだ。挙げ句、刑事事件にまで発展し、その弁護にも携わった。
「男女トラブルは面倒だ」そう言った律に「浮気する方が悪い。バレるヤツも悪い。そんな面倒事に巻き込まれるなんて御愁傷様」とバカにしていた蓮。
巻き込まれるどころか当事者となった蓮に、「御愁傷様」とそっくりそのまま返してやりたい律。全く同情の余地のない蓮に、責める言葉はあれど、慰める言葉は見つからなかった。
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