どうしてこうなった

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 蓮は律の視線から目を背けたまま「どうするつもりって……」と言葉を濁す。 「結婚する前に精算すればいいなんて思ってるから。大体そういうのって失敗するんだから」  顔をしかめる律。今となっては義妹となった弟の彼女の過去トラブルを思い出し、嫌気も差す。10年間片思いの末、ようやく結婚し子宝に恵まれたところまで漕ぎ着けた弟の笑顔を思い浮かべる。義妹を苦しめた元彼には懲役がつき、浮気が発覚した蓮は破局の線が濃厚である。 「天網(てんもう)恢恢(かいかい)()にして漏らさず」とはよく言ったものだと感心さえした。 「いや、まあ、そうなんだけど……。それで、叶衣はなんて?」 「1日考えるって。多分別れるって」  璃空がそこまで言ったところで、コートのポケットの中でスマートフォンが震えた。そういえば、上着も脱がずにいたっけとスマートフォンを取り出してコートを脱いだ。  震え続けるスマートフォンが、ブー、ブーっとテーブルの上で大きな音を立てながら少しずつ動く。  璃空がコートを脱いでいる間にも、画面に表示されている相手。それは叶衣だった。  コートを丁寧に畳みながら「叶衣だね」と璃空は言う。「いや、出ろよ」とは言えない状況に蓮も、律も黙っている。  そんな2人をよそに、璃空はスマートフォンをテーブルに置いたまま、さっさと画面をスライドさせて通話を開始させた。  ぎょっとした様子の蓮に、どこまでもマイペースだと目頭を押さえる律。  素早くスピーカーにされたスマートフォンから「璃空ー?」と叶衣の声が響く。3人の中に叶衣が混じることも何度かあった。  最初は敬称を使用していた叶衣。「璃空でいい」と何度も言った璃空に根気負けして呼び捨てしている。今となっては蓮よりも仲が良いのではと律が疑うほど遠慮のない間柄に見えた。 「元気そうだね」  泣いているかと思いきや、普段と変わらぬ声色に、璃空も思わず眉を上げた。 「うーん。まあね。夜中中考えてけっこう泣いたよ」  ははっと笑いながら言う叶衣の声を聞き、蓮はぐっと奥歯を噛んだ。普段から明るく元気で、叶衣が泣くことなど滅多になかった。それなのに夜通し泣いていたのかと思えば、叶衣を裏切った罪の重さを痛感した。 「でも、一晩泣いたらすっきりした。別れるわ」  続けてあっさりそう言った叶衣に、蓮の目は点になる。 「ちゃんと考えた?」 「考えたよ。でも、考えれば考えるほどなんでかなあっていうのはわかんなかったよ」 「そう」 「蓮ちゃんよりもさ、七海との付き合いの方が長いんだ」 「うん」 「蓮ちゃんと出会ったのが2年半くらい前で、七海と出会ったのが6年前。6年一緒にいるとさ、それなりに人となりってやつがわかるじゃん? 初めて七海と出会った時、あの人しょーもないヒモ男を飼ってたんだよ」  懐かしそうに言う叶衣に、「なんの話?」と3人は首をひねる。時折わけのわからない話を急にすることはあった。しかし、順序だてが上手いとは言いがたい叶衣の話は、最後まで聞かないと理解できそうになかった。
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