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じっと黙っている蓮と律。2人の会話を2人が聞いていると悟られるのは非常にまずい。蓮と律にも緊張が走る。
「普通に見たらあんなどーしょーもない男に惹かれるなんて理解できないのにさ、七海ってばなんの疑いもなく惚れてて一緒に住んで生活費まで渡してたんだよ?」
「ああ……そう」
そんなこともあったような、なかったようなと記憶を辿るが、璃空にはいまいちピンとこなかった。
「周りがどんだけ反対しても、自分がこう! って決めたら他人の意見なんて聞かないじゃん?」
「うん」
「それにさ、本気で好きになっただけで誰にも迷惑なんてかけてないのにって泣きそうな顔してた」
「そう」
「だからさ、七海は本気で蓮ちゃんのことが好きだったんじゃないかなって思うんだよね」
「は?」
結局、最後まで聞いても叶衣の言いたいことはわからなかった。3人同時に眉間の皺が増える一方である。
「私の彼氏だってわかってて浮気するくらいだしさ。七海が今まで他人の男を欲しがったことなんてなかったよ。私が知る限りね。私に言い寄ってきた男が、七海に猛烈アプローチを始めた時もアイツはない。やめときなって言ってきたくらい。でも蓮ちゃんとは浮気したじゃん」
「うん」
「それって、七海の方が蓮ちゃんのことを本気で好きだったとしか思えないんだよね。それが一晩考えた結果」
「……え? だから?」
結果と言われたところで全く結論になっていないと言いたい論理的男3人。聞けば聞くほどわからない叶衣の言葉に律は聞くのも面倒になったのか大きく伸びをした。
「私、友達の彼氏が欲しいって思ったことない 」
「……そう」
「でも、それくらい好きならしょーがないのかなって」
「しょーがない?」
「うん。私、蓮ちゃんのこと凄い好きだったよ。多分、今まで出会った人の中で1番好きだったと思う」
突然言われた叶衣の言葉に、蓮の胸はきゅっと痛くなる。蓮だって、ちゃんと好きになった女性だ。お菓子が大好きで、好きなことに対してはとことん一生懸命で、明るくて裏表のないところが好印象だった。
半年前、初めて大喧嘩をした。蓮も当時は大きな仕事を抱えていて心に余裕がなかった。そんな中で時間を作って叶衣が行きたいと言っていたスイーツが美味しいと有名なレストランを予約した。
待ち合わせ時間、3時間前に「友達が産気づいたの! デート今度でもいい?」と連絡してきた叶衣。
叶衣の優先順位は、いつも『先に約束した方』だった。友人も彼氏も位置付けは同じで、好きだからという理由で友人よりも彼氏を優先することはない。それはその逆も同じだった。ただ、その日は友人を優先したのだ。
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