どうしてこうなった

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 出産は病気じゃない。おめでたいことだけれど、産まれて暫くしてから御祝いに行けばいいだけだろと、そんな些細なことで喧嘩した。  予約の取りにくいレストランを、友人のツテで優遇してもらった。俺の面子もあるでしょという言い分もあり、普段ならそんなことで怒ったりしないはずが、つい声を荒げた。  幸か不幸か、絶妙なタイミングで蓮のスマートフォンにかかってきた電話。状況を見ていたのかと言わんばかりに「叶衣の誕生日プレゼント選ぶの手伝って」と明るい声で言った七海。 「いいよ。レストラン、ドタキャン受けたから食べてく?」  そんな誘いだった。自棄(やけ)もあって、いつも以上にワインを空けた。それに付き合う七海とした会話は新鮮で楽しかった。知能指数が同じレベルということもあり、叶衣とはできない会話にも花が咲いた。  気分が盛り上がったところで、「ドタキャンされて寂しいなら今晩だけ一緒にいてあげる」そう言って手を握られたら、心が揺らいだ。  普段よりもレベルの高い会話に、アドレナリンも多く分泌されていたのだろう。蓮はまんまと七海の魅力に堕ちた。  翌日、叶衣の友人が三度の流産と一度の死産を経験しており、母子ともに命の危険があったことを知らされた。だったら早く言えよと思うものの、話を聞かずに電話を切ったのは自分だったとそれ以上叶衣を責めることもできず、謝罪したのは蓮の方だった。  罪悪感と後ろめたさとが渦巻く中、なんとか正当化しようと頑張る脳。それを手助けしてくれる七海の甘い言葉だけが蓮を許してくれるようだった。  その一度の大喧嘩以外は、取り分け喧嘩もなく仲良くやってこられた。結婚しても、明るい叶衣と穏やかな日常が送れるだろうと期待もしていた。  そんな叶衣から「今まで出会った人の中で1番好きだった」と言われれば、胸が痛まないはずもなかった。 「私と七海、どっちの方が蓮ちゃんのこと好きかなって考えてみたんだよね。もし、蓮ちゃんと付き合うのが七海の方が早かったら、多分私は諦めてたと思う。七海だったらしょーがないなって思えたと思う。だからきっと好きの度合いは七海の方が上かもしんない」  なんとなく叶衣の言わんとすることがようやくわかったような気がして、璃空はふっと口元を緩めた。 「お人好しだね」 「どうだろ。納得はしてないけど、そうやって落とし込んだ。だって、蓮ちゃんになんで浮気したの? って聞いたところでなかったことになるわけじゃないじゃん。言い訳聞いたところでこっちも今まで通りってわけにはいかないし」 「まあ……そうだね」 「それにさ、もしかしたら彼女は七海で、浮気相手は私の方だった可能性もあるよね?」 「……ん?」  今回こそ話の意図が見えなくて、璃空も律も首を傾げる。コーヒーの匂いが穏やかな空間を作るが、話の内容はカップの中のコーヒーのように暗い。
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