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叶衣は既に立ち直った様子で「今度は自分が好きになった人じゃなくて、好きになってくれた人と付き合うことにする。その人のこと大事にしたらさ、きっと幸せな結婚ができる気がする」と言った。
前向きな発言に、璃空も律も心が温かくなる。バカな親友のせいでこんなにも辛い思いをさせられたのにどれほどポジティブなのかと気持ちが明るくなるようだった。
「ふーん。そっか。じゃあ、俺と結婚する?」
平然と言った璃空。律はピタリと笑うのを止め、じっと璃空を見つめた。蓮はゆっくりと顔を上げ、信じられないといったように目を泳がせた。
「ん? なんだって」
「だから、俺と結婚すれば」
「は……?」
「愛される結婚ならいいんでしょ? 俺、多分蓮より大事にできるけど」
まるで今までのやり取りなどなかったかのように突拍子もないことを言う璃空。律は、そういえばコイツ、こういうところあったんだった。と顔をしかめて前髪をかきあげた。
「え? 言ってる意味、わかってます? 蓮ちゃんと七海が結婚するかもしんないんだよ? 私と璃空がもし結婚したらさ、私とあの人達は義弟妹になるんだよ!?」
ちょっとやそっとのことじゃ驚かない叶衣が驚愕しているのが電波越しに伝わる。容易に叶衣の表情が想像できて、璃空はまた少し微笑む。
「そうだね。でもさ、考えてみなよ。浮気して後ろめたい蓮と七海も、叶衣の結婚が決まったとなれば心置きなく結婚できるよ」
「サイコパスかよ」
璃空のように抑揚のない叶衣の声が聞こえ、そりゃそうなるわと律は呆れる。璃空は一変して実に面白そうに目を輝かせている。新しいオモチャを与えられた子供のようだと律は思う。
フリーズしたままの蓮は、当然声を発することもできず、璃空の次の言葉を待った。
「まあまあ。七海が一応、叶衣にほんの少しでも罪悪感があったとして」
「限りなくないような言い方じゃないか」
「うん、あったとしてね。叶衣が幸せになれば丸く収まると思わない?」
「……え? あなたが私を幸せにできるような口振りですけど」
「そうだよ。それに叶衣さ、うちの両親と既に仲良いよね? 大地とも義姉さんとも」
「え? あ、うん。今年も一緒に旅行行ったよ」
「血縁者の俺がいかない家族旅行に叶衣は参加してるわけじゃん」
璃空はそういいながらコーヒーを一口飲む。甘味のない豆の味が口内に広がる。鼻を抜ける香りに、今度は叶衣と喫茶店でも行こうとふと思った。
「あんたが誘ってもこなかったんでしょ。それがなに」
「結婚の挨拶、簡単でしょ?」
「え?」
「普段から仲良い家族に会いに行って結婚しますってスムーズだと思わない? うちの家族なら学歴云々とか言わないし。蓮の実家行って大変だったって言わなかった?」
蓮は、聞いたことのない話に思わず身を乗り出す。盆休みに彼女でもつれてこいと両親に言われ、数ヶ月前に東京の実家に連れていったばかりだった。
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