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元々静岡県出身だった璃空と律。それもあって友人になったのだが、共に就職先は知り合いの事務所に世話になるつもりだと言った。在学中に静岡を訪れてみれば、長閑でいいところだった。
田舎過ぎず、都会過ぎない。東京育ちの蓮にとって多少不便さはあったが、住み心地は良さそうだと静岡で就職したのだ。
あまり東京には行ったことがないという叶衣。実家に上がらせれば、緊張が伝わってくるようだった。普段の明るさは半減し、言葉遣いを気にして言葉を選ぶ姿に叶衣なりに努力してくれているのだと嬉しく思った。
しかし、璃空が言った大変だったという言葉。帰りの新幹線で爆睡していた叶衣の寝顔を見て、疲れていたことは察したものの、叶衣からの文句など何1つ聞かれなかった。
「あー。そうだった。なんかさ、私七海と出会うまで弁護士ってドラマで見るような堅苦しい感じだと思ってたんだよね。ぴしっとしてて礼儀とか道徳とかに煩くて、細かいイメージ。
それが家族全員弁護士だって聞かされてたらさ、怯むじゃん? 初めて七海の実家に行った時もビクビクしてたわけよ。だけんさ、行ってみたらあんたの家族皆いい人じゃん? うわぁ、弁護士の株上がったわーって思ってたわけさ」
叶衣の飾らない物言いに、場はふっと和む。実際弁護をするとなったら、当然トラブルありきなわけで、ピシッとしない場面などあまりない。滞りなく相続を終えたりするケースもあるが、人間同士というのはそうそうスムーズにいかないのが常である。
叶衣が持つイメージも致し方ないことだと3人は納得する。
「だから、ドラマのイメージってあくまでもイメージで、弁護士も人間性なんだなぁって思ってたんだよ。蓮ちゃんの実家に行く時も、七海の家族を想像してたからさ……土地柄なのかな」
叶衣の濁した言い方に、蓮と律は察した。実家でなにかあったのだろうと顔をしかめた。
「嫌な思いしたんでしょ」
「嫌な思いっていうか……まあ、蓮ちゃん長男じゃん。ゆくゆくは東京に戻ってきてもらわなきゃねぇ。叶衣さんは、直ぐにでもこちらに来れるのかしらぁって言われたよ」
「行けたの?」
「うん、まあ……慣れない土地で大変だとは思うけど、新しい発見もあるだろうし、それはそれで1つの転機として受け入れようと思ってたんだよね。でもさ、出身大学聞かれて答えたら、聞いたことのない大学ねぇ。うちは皆T大なのよーって言われてだからなにって思ったよ」
そんな会話をしていたことなど知らなかった蓮は、目を丸くさせる。璃空も律もよくある話だ、と表情を変えなかった。
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