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蓮が眉を上げたことで、律も璃空もやはり叶衣だったかと軽く息をつく。
できれば2人を帰してからちゃんと叶衣と話したいと思う蓮。今は別れる気でいても、もう少ししたら考えが変わるかもしれない。
実家にまで連れていったということは、ちゃんと本命であって結婚を意識した関係だったに違いないと思い直してくれるかもしれない。なんていう甘い考えすら沸いてくる。
「出ないの? 叶衣でしょ」
そう璃空に急かされて、奥歯をぎりっと噛む蓮。さらっと彼女を口説かれたのだ。今電話に出て引き留めることができたなら、璃空に再びなぜあんなことを言ったのかと余裕を持って聞くことができる。しかし、悪い結果の方が濃厚でスマートフォンを持つ手も震えた。
「後回しにしても、いずれは話し合わなきゃいけないわけだし」
追いたてる璃空をきっと睨み付ける蓮。できれば親友達の前で無様に振られるところなど見られたくはないとは思うものの、璃空宛ての叶衣からの電話で既に恥は晒している。
射精することしか考えていないとまで言われ、プライドは傷つくが昨日実際に七海を抱いているがために何も言えない。
あとから1人、かけ直してまともに対応できるかどうかもわからなかった。それならまだ今の状況の方が気持ち的に楽か。
ジレンマに苛まれる中、蓮は通話ボタンを押した。しかし、スピーカーにはしなかった。
「もしもし、蓮ちゃん?」
「もしもし……」
とても明るい声は出せない。震えないよう平然を装うだけで精一杯である。電話の向こう側は静かだ。実家暮らしの叶衣の家には休日を満喫している家族がいるはず。自室にこもっているのか、車内からかけているのかとふと頭を過る。
そんな思考を遮るように「昨日、行けなくてごめんね」と向こう側から声がする。
「え? ……あ、うん。忘年会楽しかった?」
いきなり怒鳴られるんじゃないか。そんな覚悟もしていたため、静かなトーンでそう謝られ蓮は拍子抜けしてしまった。
俺は何を聞いてるんだ。このままなかったことになんてできないのに。
そうは思うものの、もしかしたら普通に会話をして、普通に電話が切れるんじゃないか。そんなありえない展開を期待する。
「楽しかったよ。瞳さんがね、飲み過ぎちゃって部長にまで絡んで大変だっただよ」
ははっと笑う叶衣の声。話せば話すほど普段通りで、もしかしたら本当に……なんて期待は膨らむ。
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