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璃空側も叶衣側も家族は皆穏やかな雰囲気に包まれ、祝福の空気が漂う中、蓮と七海はまるで通夜のような顔をしていた。
「なあ、七海。家族の前でくらい笑顔作ったら? 俺達の時も散々祝福してもらったろ」
せめて表向きくらい取り繕えと言いたい蓮。叶衣が泣くほど辛い中、蓮と七海の式に出席してくれたと思っている蓮は、こんなんじゃ2人の前に出られないと顔をしかめる。
「別にお祝いする気がないわけじゃないわ」
「仕事の件と結婚式は別だろ? わざわざ静岡に帰って来たのに」
「帰って来たってなによ。私はもう東京の人間なの」
「わかるけどさ、」
「わかってない。蓮はわかってないのよ。私がお義母様になにを言われたかわかる? 早く子供を産めですって」
「まあ、孫の顔が見たいって思うのは当然だろ」
「蓮はそう思ってる? 結婚してからちっとも私のこと抱いてくれないじゃない!」
声を荒げた七海にぎょっとした蓮は、キョロキョロと辺りを見渡す。大地達は一度そちらに視線を移したが、新婚でも喧嘩くらいある。とすぐに視線を戻した。
慌てた様子の蓮は「仕方ないだろ。実家じゃ俺だってなにかと気を使うんだよ。それくらいわかるだろ?」と七海をなだめる。
しかし、叶衣を想って止まない蓮は、叶衣を抱けなくなり、ちょっとつまみ食い感覚で七海を抱く気になどなれなかった。
どんなに求めたところで抱けるのは七海だけ。あの柔らかそうな肌を求めても、七海を抱いて満足するのはあの豊満な胸だけだった。
後はゴツゴツと骨が当たり、気持ち的に冷める。
俺、細すぎる子タイプじゃないんだよな。
今になってそんなことを思う。
それでも本能的に性欲は溜まるわけで、叶衣と別れてから一度も七海を抱いていないわけではない。それをそこまで文句を言われれば、夫としての役目くらいはしていると言い返したいのをぐっと押さえる。
どちらにせよ七海との繋がりがなくなれば、叶衣との繋がりもなくなってしまう。そう簡単に手放してたまるか。そんな気持ちの方が上回る。
全員が全員祝福モードでいるのが当たり前というわけでもないのか、そんな不機嫌な七海の着付けも淡々とこなす式場スタッフ。
「お綺麗ですね。とてもお似合いです」
難なく褒めちぎり、ほんの少しずつ七海の機嫌も落ち着き始める。
「ななみちゃん、かわいー」
姪っ子達にそう言われれば、思わずふっと笑ってしまう七海。子供には罪はないと伸ばされた手を握った。
「ゆづも芽依も可愛いじゃない。今日はお姫様ね」
「そうなのー。ゆづ、芽依と一緒にかなえちゃんのお手伝いするんだよ」
きゃっきゃとはしゃぐ子供達。
「お手伝い?」
ようやく穏やかな雰囲気に包まれようとしたところで七海はピクリと眉を上げた。
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