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奏が律の妹だと知っている蓮はそっと律を横目に見る。親友であるはずの俺にはそんな演出の話などなかったのにと目で訴えた。もとい、蓮の母が取り仕切っていた結婚式に蓮の友人が入り込む隙などなかったのだが。
面白くないのは七海の方が強い。皆が嬉しそうに璃空と叶衣の動画を見て、奏のお祝いに凄いと拍手すらする。
私は豪華なゲストを直接呼んでもらったのに……。目の前で生演奏を聞いて、ネタも披露してもらったのよ!? モデルよりもよっぽど知名度も高いのに。
七海は下唇を噛んで悔しさを痛感する。規模でも豪華さでも負けているはずがない。なのになぜかひしひしと押し寄せる敗北感。
圧倒的に女性人気の高い奏が璃空と叶衣のために動画を提供したとあって、叶衣の友人達ははしゃいでいるし、奏が改名したことにより律の妹だと気付き始めている大学時代の友人達が羨望の眼差しで律を見つめていた。
今日の主役は璃空と叶衣。そんなことはわかっているが、自分が全く注目されないことが次第に不服に思えてくる。
その辺のモデルくらいのスタイルは維持しているし、誰もが羨ましがるほどのルックスも持っている。若草色の訪問着は、叶衣のドレス以上に大人の色気を放っている気がした。それなのに、そんな七海には目もくれず、盛大にお祝いされる2人。
こんな式なんかさっさと終われと思いながら、七海はひたすら胸糞悪い結婚式に耐えた。
七海の期待も遂に終わりを迎えた結婚式。蓮と七海の式に比べれば3分の1程度の時間で終わったにも関わらず、疲れた、疲れたと声を漏らす七海。
それでも姿勢を正し、璃空や叶衣の友人達に挨拶をする。
「あれが璃空さんの妹さん? やっぱりお兄さんに似てすっごい美人だね」
こそっとそんな言葉が聞こえて思わずにんまりと口角を上げる七海。
ようやく、ようやくだわ。私に注目される時がきたのよ。
ふふんっとすまし顔でいると「着物似合ってるよね。なんか、銀座のママって感じ」と聞こえ、ぴくりと体が反応する。
「ああ、わかる。綺麗だし気品はあるんだけど、なんか夜の香りがする」
笑い声とともにそんな言葉も聞こえ、かあっと頭に血が上る。
銀座のママ!? 夜の香りがする!?
なんて失礼なの!
すっかりご立腹の七海。仕事への不満などすっかり忘れ、とっとと東京に戻りたいと震える拳をなんとか抑えていた。
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