どうしてこうなった

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 叶衣の方は、「まあ俺に任せておきな。要は、人間の心理を突けばいいんだよ」そう言った璃空の指示通りに動いただけだった。  なるべく普段通りに、飾らずありのままでいること。礼儀はわきまえ、引くところはしっかり引いて大人の対応をすること。会ったらなるべく嬉しそうに笑顔で応え、男女平等に、誰に対しても同じように振る舞うこと。    璃空に言われたのはそれだけ。叶衣にとっては、璃空の指示通りに動いたとはいえ、普段の自分として過ごしただけだ。  どうせ猛アタックしたところで、叶うはずのない恋。だったら、協力してくれるという友人に素直に従おうじゃないか。そう思っただけだ。  どんな魔法を使ったのか、璃空が言ったように叶衣が苦労しなくても蓮の方から告白してきた。 「おめでと。あとは叶衣次第。ちゃんと好きだったって蓮にわかるように愛情表現は怠らないようにね」  そう微笑んだ璃空に何度感謝したことか。  蓮と恋人になってからの初めてのデートも会話も全てが幸せだった。 「叶衣が俺のこと好きだったなんて知らなかった」  そう言って嬉しそうに笑った蓮に、叶衣は精一杯の愛情を注いだ。  蓮が不安にならないよう毎日の連絡も怠らなかったし、苦手な料理も頑張った。実家に連れていってもらった時には、嫌な思いもしたが、蓮を産んでくれた人だとそれも飲み込んだ。  毎週、休日のどちらかは蓮のために時間を空け、会える喜びを痛感した。 「蓮ちゃん、大好き」  そう言って笑えば、蓮も満足そうだった。  その降り注ぐような愛情は、蓮に十分伝わり、実感を与えた。  どんなに忙しくても蓮のために時間をつくる叶衣。残業だらけになっても電話には出てくれる。  叶衣は、俺のことが好き。そう確固たる想いを得た時、蓮の心に余裕を生んだ。  だからこそ、そんな蓮よりも友人を選んだことが気に入らなかった。ほんの少し、揺らいだだけだ。七海はこの上なく魅力的な女性だったから。男の理想像そのものだったから。ただ、恋人にするには何かが違う。  自分に自信があって、モテる自覚のある七海は、一緒にいて楽しいが癒されるのとは違った。  ずっと家の中で共に過ごすなら、一緒にいて心休まる人がいい。そう思った時に思い浮かぶのは、やはり叶衣の顔だった。  結婚するなら叶衣、一時を楽しみたいなら七海。そんな都合のいい考えが通用するはずもない。  「うん、大変だった。なんかもう疲れちゃってさ、蓮ちゃん別れよ」  淡い期待は急に砕かれる。ああ、そりゃそうだよな。そう思いながら、体の中から込み上げる何かが熱く、重く全身に突き刺さるような熱を感じた。
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