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9月下旬。臨月となりまん丸く膨れたお腹をさすりながらソファーに背を預ける叶衣。子育て応援の雑誌を開く。
ベビーベッドやオモチャやおくるみなど、出産祝いでいただいたものもあり、あらかたベビー用品は揃っている。
そんな中に囲まれて、胎動を感じる日々が幸せである。
既に産休に入った叶衣は、璃空が仕事の間暇な時間を過ごす。とにかく過保護な璃空が一切の家事もさせないのでやることがない。
叶衣と子供のために栄養を考えて作った璃空の手料理が冷蔵庫の中で眠っている。それを温めてお昼ご飯を食べたところだ。
予定日が近付くに連れて、あと何日かとスマートフォンのカレンダーを指でなぞる。
「元気で生まれてきてね」
そっとお腹を触れば中で動く。活発に動くようになった我が子。璃空と行った検診で男の子だということが判明した。エコー写真を見て叶衣以上に喜ぶ璃空。
そのまま璃空の実家に直行して名前を決めると大騒ぎの璃空に叶衣はついつい笑ってしまう。
散々あれじゃない、これじゃない、と悩む璃空。漢字や響きで候補を挙げては消す。
「璃空達は面白いよね。空と海と大地だもんね」
叶衣がそう言えば、義母が嬉しそうに「伸び伸びと育ちそうでいいでしょ」と言った。
七海に関しては伸び伸びと育ち過ぎのような気もしたが、璃空も叶衣もそこには触れなかった。
「子供の名前ってどうやって決めるんだろ……」
遂に諦めた璃空。まだ時間はあるし、急いで決めなくてもいいかもなんて思い始める。
「やっぱり漢字の意味や字画じゃないかしらね? 響きも大切だけど」
「めいはー?」
義母の言葉に、3歳の芽依が入ってくる。意味がわかっているかは謎だが、舞がその手をとって「芽依ちゃん、可愛いじゃんね。芽依の中に叶衣ちゃんとおんなじ字が入ってるね」と言った。
その言葉にピクリと反応する璃空。
「……それはずるい」
そんなことを言い始める璃空。
蓮と七海の結婚パーティーの日には、叶衣に対する蓮の熱い視線を感じた。恐らく脱衣場で自慰行為に及んだであろう蓮を許したわけではない。
その後の結婚式も事ある毎に叶衣に送る視線が気になって仕方がない。子供が産まれれば、出産祝いにやってくるだろう。当然子供の名前も聞かれる。
叶衣は既に蓮の元カノではなく璃空の妻なのだ。その事実を全くわかっていないと璃空のモヤモヤとした感情はいつまでも消えない。
決して顔にも態度にも出さない璃空だが、内心は蓮がこれ以上叶衣に近付くことのないようにしたいと日々考えていた。
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